町田まわるまわる図鑑 〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー~ <油絵画家:八木原由美さん>

開催:2020年9月16日(水)

油絵画家:八木原由美さん

町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第二弾は女性美をテーマに裸婦を描く油絵画家:八木原由美さんです。
10月21日より、待望の地元初個展「八木原由美個展2020 ~月を纏う~」がスタート。
八木原さんにとっての女性美とは。ルーツや具体的な制作方法などにも迫りました。

■ご出⾝はどちらですか?
出⾝は渋⾕です。幼稚園の頃は世⽥⾕の松原にいました。⼩学校の途中で祖師ヶ⾕⼤蔵に引っ越したのですけれど、電⾞で松原の⼩学校に通っていました。松原は近くに⼤学があって、当時駅前にあった映画館のポスターが⼥性のヌード写真ばかりだったんですよ。男の⼦たちがそれを⾒てすごく騒ぐわけ。そこから私はすっかり男嫌いになりました(笑)中学は男⼥共学に絶対⾏きたくない!と思って、⼥⼦美に進学しました。なのに何で今、裸婦を描いているのかな〜と不思議に思いますね。
今は町⽥に住んでいるのですが、⽗の「広いところに引っ越ししよう!」という声で、50年ほど前に町⽥に引っ越してきました。当時は家の周りにほとんど何もなく、道も舗装されていない、アンドリュー・ワイエスの作品に描かれているような、⾃然のままの場所でした。
 
   
■絵を描き始めたきっかけを教えてください。
幼稚園⽣の時、お友達に連れられてアトリエに⾏きました。素敵な緑の鬱蒼たるお庭のアトリエでした。おじちゃん先⽣と、おかっぱ頭のおばちゃん先生が出てきて、ミルクとクッキーを貰ったんです。それで、そのアトリエをとても気に⼊ってしまって(笑)そこから、通い始めました。そこでは、⼦どもでも、ちゃんと⼤⼈のように扱ってくれる場所だったんですね。⼤⼈にまじって制作したり、お茶を飲んだりして。それがとても嬉しかったですし、憩いの場でした。そのアトリエには先⽣が亡くなるまで 20 年以上、⼤学を卒業しても通い続けていました。アトリエにはクレパスで描かれた不思議な絵がたくさん飾られたのをよく覚えています。パウル・クレーを彷彿とさせる、抽象画でした。私は東⽇本⼤震災の時に、絵が全く描けなくなりました。絵なんか描いていても仕⽅がない、みたいな気分になっちゃって。そんな時たまたまテレビを⾒ていたら、とても⾒覚えのある絵が出てきたんです。それがあのアトリエのおかっぱ頭の先⽣の作品で!関⾕富貴さんという⽅です。遺作展が栃⽊県⽴美術館で開催されるというニュースを聞いて、すぐに飛んで⾏きました。素晴らしい絵ばかりで、本当にエネルギーを貰いました。また絵を描こう!と⽴ち上がることができた、私の復活の原点ですね。
   
   
■アトリエで⼀番最初に描いた絵は覚えていますか?
はい、初めて描いた作品は壺です。4ツ切りの画⽤紙に描いたのを覚えています。先⽣からは何描いてもいいんだよ、と⾔われていたのですが⼩学校卒業までひたすら壺を描いていました。当時の私には壺の曲線が⼈に⾒えていました。その後から⼈物を描き始めたんです
けどね。ですが、なんで壺ばっかり描いていたんだろうと、今でも不思議です。

「春」F20号

■⼋⽊原さんは裸婦をメインに描かれていますが、初めて裸婦を描かれたのはいつですか?
⾼校2年⽣の時、東京藝術⼤学の夏期講習で初めて裸婦デッサンをしました。デッサン中、モデルさんの胸の鼓動がわかったんです!呼吸に合わせて、5mmくらい胸が動くんですね。その時はじめて「あ、⽣きてるんだ」と感じました。それまでは⽯膏デッサンや着⾐モデルしか描いたことがなかったものですから、呼吸や熱を発散する感じに、とても感動しました。私はその感動で、今も裸婦を描いていますね。
   
     
■作品の⼥性は、何を表しているのでしょうか。
私は、どこにもいない⼈を描きたいといつも思っています。⽣きているけど、この世のものでないような…昔の⼈は聖⺟マリアやギリシャ神話のヴィーナスになぞらえたりしていましたけど、その気持ちはわかります。私は神秘的なものを絵の中に残したいです。それは⼥性そのものでもありますし、空間処理の部分でもだいぶ変わります。⼥性⾃⾝の魅⼒以外に、モチーフの組み合わせとか、そういうものもすごく絵の中では関係してきます。なので、いつも光の当たり⽅や布地のしわの加減などに気をつけて描いています。
 

上段の2枚は現在制作中の新作。

■⼋⽊原さんの作品の中で、⽉・猫・花・果物・扇のモチーフがよく出てきますが、それは何故ですか?
私は、本能的に共感するモチーフを描いています。よく出てくるのは妖しさや神秘性を感じるモチーフですね。例えば果物だと、よく描くのは桃と葡萄です。葉は妖しげでないとだめだし、実も神秘的じゃないとだめ。パイナップルは「元気!」というイメージなので私の絵にはならないです(笑)
   
   
■作品の構図はどのように思いつきますか?
例えば猫だったら、写真を探して欲しいポーズがあったら参考にします。最近は instagramが好きで、同じ猫ちゃんの写真ばっかり⾒ています。私の絵はジグソーパズルのようで、⾃分の欲しいところに欲しいポーズを探して、持ってくるように構図を決めています。

■具体的な制作の流れを教えてください。
まず、エスキース(*1)をして、キャンバスに下描きをします。私の作品は地塗り(*2)の段階で7、8 回絵の具を重ねるのが、1つのマチエール(*3)づくりなんですね。エスキースや下描きの時点で全て構図を決める⼈もいると思うんですけど、私はキャンバスの中でどんどん構図を変えていきます。⾃分のキャンバスの中で育てるように、時間をかければかけるほど輝いてくるんじゃないかなと思っています。⾃論ですが、絵の具は重ねれば重ねるほど透明感が増すと思っているので。なので、1枚ずつ描いているんじゃ、きりがありません。地塗りの段階で何枚か同時進⾏で描いて、70%くらいまで完成したら、1枚を集中して仕上げます。

*1:エスキースとは…作品を制作するための構図を描きとめた下描きのこと。
*2:地塗りとは…絵を描く準備として、板・キャンバスなどの表⾯を整えるために⽩い絵の具などで下塗りすること。
*3:マチエールとは…絵画の絵肌、彫刻の質感など、作品における材質的効果のこと。

■⼋⽊原さんの作品は艶やかな絵肌が特徴的ですが、どのように描かれているのですか?
私は柔らかい筆を使って描いています。油絵で通常使われる豚⽑の筆を途中まで使って描いたことがありましたが、やはり筆跡が残ってしまいダメでした。完成までずっと響きましたね。2〜3⽇描かない⽇が続いてしまうと、どうしても劣化してしまうので、仕上げは必ず新品の筆を使います。また、顔は必ず⽇本画の筆を使って描きます。
絵の具は特にこだわりはありません。⼀番使うのはマツダのスーパーで、欲しい⾊があればクサカベやルフラン、ニュートンも使います。
   
 
■普段、どのような環境で制作されていますか。
⾃宅で、⾳楽をかけながら制作しています。⼤好きなのはトリオ・リベルタ(*4)。まほろ座の公演にも⾜を運びました。あとは普段、⽇が⾼く上っているうちに描きますね。⽇が落ちると⾊が⾒えづらくなってしまうので。冬だと、16時くらいには⽇が落ちてくるので制作をやめます。

*4:トリオ・リベルタとは…2000 年、現代タンゴの⾰命児アストル・ピアソラの作品を演奏するコンサートシリーズ「ピアソラ・ナイト」から結成されたグループ。
   
   
■制作に⾏き詰まった時はどうしていますか。
普段描く時期はみっちりまる1日集中型で、リフレッシュするときはけっこう⻑くお休みをとります。制作中に⾏き詰まった時は、窓から緑を眺めて⽬を休めます。
   
   
■影響を受けたアーティストは誰ですか?
モイズ・キスリングが⼤好きです。⾼校3年⽣、⼤学受験前⽇に池袋の⻄武デパートにエコ-ル・ド・パリ展を見に行きました。お目当てはジュール・パスキンや、ヴァン・ドンゲンでしたが、そこにたまたま展⽰されていました。もう、⾒た瞬間にドキーン!としました。なんだこれは、こんなのありか!と怒りをちょっと感じたくらい(笑)学校ではセザンヌをはじめとする印象派(*5)から学んだんですね。でもキスリングの絵は描き⽅が全部違って…ガラス質で、ピッカピカでツヤツヤな絵肌でした。⼤学で⾊々と学び直して、キスリングの技法に辿り着きました。
藤⽥嗣治(ふじたつぐはる)も好きです。藤⽥嗣治の描く裸婦は陶器のようになめらか、しなやかな曲線がとても美しいんです。あと必ず猫が出てくるところも好きです。

*5:印象派とは…1860年代半ばにフランスで起きた芸術運動で、描く対象の輪郭や固有の⾊より、周囲の光や空気の変化を正確にとらえようとした画家たちを指す。

■今回、油画以外にリトグラフ(*6)も展⽰されますが、版画を始められたきっかけは何ですか?
藤⽥嗣治は⽇本画のように絵の中に線を描いていますが、私は線を使わない、と⾃分に⾔い聞かせて描いてきたんです。でもたまには線も使いたいじゃないですか。それで版画を始めたようなところはありますね。油絵では⾊をたっぷり使って、⽴体感を出しながら描きたいのですが、版画はできるだけ⾊を抑えてモノクロームに仕上げたいですね。
*6:リトグラフとは…⽊版画と違い原版を彫らない版画技法。化学反応と、油と⽔とが混ざらない性質を利
⽤して、版にインクが付くところと付かないところを作る版画。

■⼋⽊原さんは作品の中でよく⿊⾊を使われていますが、こだわりなどはありますか?
私はアイボリーブラックに⾊々な⾊を混ぜます。ピーチブラックなど、⿊にも様々種類がありますが、アイボリーブラックが⼀番温かみのある⾊ですね。⿊は無限⼤の神秘だと思います。⿊が決まらないと絵全体が締まらないですね。
 

「⽉光」F100号

■今回のメインビジュアル「⽉光」について詳しくお聞かせください。
絵を描くときって、皆さん⼼の中で描きたいものに強烈なライトをあてて描きますよね。私の場合は⽉の光…やわらかい⻘ざめた光をあてて、そこに浮き上がったものを描きたいと想っています。太陽の光というのは、強すぎて消えちゃう部分もあると思うのです。全部を描こう、と思うと⽉の光が丁度いいんですね。また、⼥性の後ろにいる、⾸がない男性の⾝体と⾺の⾝体がかけ合わさってできたものは牧神というか半獣神、現代美術作家の作品です。⼀⽬⾒てすごく気に⼊ってしまって、それから作品の中によく出てきています。男性は⼤概これを⾒ると気味悪がるんですけどね。私の⼼の底の潜在意識が出てきているのかもしれません。あとはこの頃から背景の模様に⾦の絵の具を使い始めました。最初はおずおずと使っていたのですが絵に⽀障がないことがわかったので、最近は積極的に使っていますね。
   

100号の絵。現在左側の⼥性を⼿直ししている。

■個展に向けて⼀⾔お願いいたします。
これまで様々な場所で展⽰を⾏って来ましたが、地元町⽥での初個展なので、とてもドキドキしています。今回は広い会場なので、100号2点他、版画を含め25点ほど展⽰します。10年以上前の作品から新しい作品まで並ぶのですが、昔展⽰した作品はほぼ全て⼿直ししています。私は制作点数が少ない分、⾃分なりに完成度の⾼いものを残したいと思っています。昔⾒に来ていただいた⽅も、初めて⾒ていただける⽅にも楽しんでいただけるのではないでしょうか。
 

八木原由美(油絵画家)プロフィール

東京都町田市在住。女子美術大学洋画科卒業。1976年銀座東和画廊にて初個展。以降、各地で個展26回開催。1996年より町田市国際版画美術館のリトグラフ講座を受け、版画制作も始める。1981年〜86年日動画廊「現代の裸婦展」出品。永井画廊「日本の絵画2012」佳作賞。2018年公募-日本の絵画-受賞者セレクション。2019年 「ア-トオリンピア2019」審査員特別賞。現在、新作家美術協会委員。群馬版画家協会会員。

パリコレッ!ギャラリー vol.2
「八木原由美個展2020 ~月を纏う~」

町田パリオがオススメする
アーティストの月イチアート展シリーズ第二弾!

女性美を描く画家「八木原由美」の代表作から最新作までを展示。月の光を纏った柔らかなもの達…猫、女、衣擦れの音を油彩画とリトグラフで表現した。待望の地元町田での初個展。

日付:2020年10月21日(水)〜27日(火)
時間:10:00〜18:00
会場:3F ギャラリー・パリオ
入場無料

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パリコレッ!ギャラリーvol.3
アーティストインタビュー
イラストレーション / 写真:みきかよこ

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