町田まわるまわる図鑑  〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー~ <木版画家:たけがみたえ>

開催:2021年7月20日(火)

町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」の第9弾は、
木版画家・絵本作家として活躍するたけがみたえさんです。

2021年7月20日(火)より、たけがみたえ個展『いっぽ、にほ、さんぽ』を開催にあたり、
たけがみさんにお話を伺いました。

■木版画家を目指すきっかけは?
もともと絵を描くことが好きだったんですけど、親をはじめ周りの先輩など、自分で仕事を作り出している人が多かったので、自然と「私は芸術家かな!」って思いました。絵を描いたり、なにか作る人になるんだろうって。高校に入って、先輩から「お前の絵ってすごいおもしろいな」っていわれたのがすごく嬉しくて、確信的に「よし!」と思いましたね。それから予備校に行き、芸術のできる大学を具体的に探し始めました。
   
   
■大学は町田の和光大学に行かれましたが、こちらを選んだのはなぜですか?
元々高校まで和光に通っていて、和光では自分の意見が言えればマルだったんです。予備校の国語のテストで穴埋め問題だったんですが、用意された言葉の中から答えを選ぶんですけど、よくわからなくて、、、(笑)和光でも版画ができるってわかり、そのまま大学も和光にしました。実は4年生までリトグラフ(※)を学んでいました。卒業制作で大きいものを作りたくなって、リトグラフだと摺り台が小さいから継ぎはぎをしないといけないので、卒業後の作家活動もふまえて、ここで作風を変えようと卒業制作で木版画をはじめました。初めて木版画をやったわりにすごく手ごたえを感じました。
※リトグラフ・・・木版画と違い原版を彫らない版画技法。化学反応と、油と水とが混ざらない性質を利用して、版にインクが付くところと付かないところを作る版画。
   
   
■リトグラフから木版画に転向して違いはありましたか?
リトグラフの良さは描いた鉛筆や筆のタッチがそのまま出るからそれはそれで楽しかったんですが、木版画も最初に大きい作品を作ったこともあって、板の上に乗って自分の体全部を使って作っていくっていうのが、絵を描く感覚にすごく似ているな~と思いました。それが楽しくて、感覚的にこれいいやって感じて卒業後も木版画家としてずっとやっています。
   
   
■急な路線変更に、周りはびっくりしませんでしたか?
先生も親切に関わってくれて、自由にやらせてくれました。和光大学はとてもおおらかで、学生としても変に先生の反応を気にせずに、のびのびと制作できましたね。出会う人みんなおもしろく、影響も受けました。先生もすごいなって思います。気持ちを潰さずに、競争もさせられなかったし、そういう風に思わせてくれる環境の学校だったのは、私にはよかったですね。
   
   
■たけがみさんといえば、‘みたらみられた’ですが、このシリーズのきっかけは何ですか?
18歳の時に長野にいって星空観察会があったんです。みんなで丘を登っていったら、放牧された牛と目があって、その時は「怖っ!どうしよう!」と思ったんですが、あとで考えたら、‘みたらみられた’という感覚がおもしろくて。それ以来、目があった瞬間というのを大事に、ずっとこのシリーズを描き続けています。
目があったというのは、お互いの存在を確認しあった瞬間で、「いますね。」「いますね。」みたいにお互いを意識する。それがなかったら知らないまま時は流れていくけど、その瞬間ピタッと時が止まるのがすっごくおもしろくて。その一瞬で自分のなかにいろんな感情が沸いて、気持ちが変化する。私にとってはこの‘みたらみられた’はとっても大事なんです。
   
   
■今回、今までの作品が30点ほど並びますが、初期と比べて作品の変化は感じますか?
描くものやテーマは変わらないですが、サイズがどんどん小さくなっています。前は大きいものを作りたいという気持ちが強くて、大きい方が楽しいと思っていました。動物とか実物大で彫ったりと、発散できるサイズを選んでました。
それが展示をするにつれ、いっぱい作りたい欲が今度は出てきて。自分の作風みたいなのがある程度できあがってきたこともあって、サイズへのこだわりがなくなったのもあります。最近は展示を意識して額のサイズで決めたり、人が見てくれる喜びを一番に考えちゃっているから、それに合わせたサイズでつくることに重きを置いています。それもあって、改めてまた大きな作品を作りたいと思い始めてます。クジラとかトラとか、野生の熊とか、今はおっきい動物とかやりたいですね。
   
   
■色彩の変化はありますか?
今は青い世界から脱出できないところがありますね。例えば夜の風景とか。前は実際の色とは関係ない色を使って、真っ赤な牛とか黄色い牛とか、色づかいがのびのびしていました。
今は色が凝り固まってきているのに、なんとなく気づいています。良い方にいくか悪い方にいくか、変化していくしかないし、ただ今が嫌だという気持ちはないです。今回の展示では、自分でも客観的に見てみます。
   
   
■たけがみさんの作品は色彩豊かですが、好きな色、嫌いな色はありますか?
嫌いな色はないです。パステル調だったり、使わない色があるけれど、それは使ってみたいけど頭が動かない色で、いつかは使ってみたい憧れの色ですね。
使う色には偏りがあって、黄色の減りは早いですね。私は、絵の一番下は黄色でまず絵を描きます。黄色が一番下にのっていると考えやすいし落ち着くんです。ラフとか下絵も黄色なので、色鉛筆もクレヨンも版画のインクもとにかく黄色が減ります。
版画の場合、一番最初に黄色の版で刷るとその上に複数の版の色が重なって、削って残った黄色の部分がキラっとするのが好きですね。
   
   

■ひと作品は何版でできているんですか?
大体、版4枚で済むので、4版で多色刷りして彫り進めていきます。
この作品だと、星とアライグマのシルエットで黄色の版が一枚、アライグマのシルエットで多色刷りの版が一枚、空とアライグマの影で青の版が一枚、アライグマの顔で白い版画1枚で計4枚で刷られています。アライグマのシルエットの版は、まず黄土色を刷ってから彫り、次に濃い黄土色を刷ってさらに彫り、最後に茶色で刷って、最終的には毛の模様だけが版に残ります。
   
   
■作品は1セットから何枚くらい刷るんですか?
私は1セットから6枚ほど刷ります。彫り進め技法(※)なので、はじめに決めた枚数しか作品はできません。始め6枚でスタートしても、失敗して半分しか残らなかったりもします。完成した作品には、エディション(番号)を入れています。
複数枚刷るので家の中は作品だらけですね。版もすごい量があります。たぶん3畳分くらいの版がありますね。
※彫り進め技法・・・彫りと刷りをくり返し、多色刷りをする技法。
   
   
■版ができるまでの工程を教えてください。
まずは下絵を描いて、それをトレーシングペーパーに線で起こします。「これは黄色の版と青の版と茶色の版で、、、」と頭の中で色分解して、トレーシングペーパーからカーボン紙で版に写して彫っていきます。工程が多いので、ひと作品に3~4日はかかります。絵本だと制作に入って2か月はかかります。
   

■木版画の好きなところは?
一番はめくるところ!めくったときの「うわー!」っていうのがやめられないですね。あとは、並べるのが好きですね。同じものを並べるって充実感があるんです(笑)
   
   
■逆に版画の苦手なところは?
版木が重いところが、、、MDFボードっていう、紙が圧縮された合板を私は使っているので、たぶん木の板より重いんですよね。ホームセンターで買ってくるんですけど、一冊の絵本つくる場合だったら、サブロク(90cm×180cm)版を一気に5枚くらい買わないといけないから、ほんとに重労働なんです。版画される方は桜の木とか版画に適した版木でやっていると思いますが、私の場合は油性インクを使っているのであんまり木目とか重視していなくて、さくっていう爽快な感じや、彫りやすさとインクの塗りやすさでMDFボードを使っています。

■道具のこだわりはありますか?
どこどこのものというこだわりはありませんが、大作を作るときや絵本を一冊始めるときは、
いい彫刻刀を神保町の文房堂っていう画材屋に買いに行きますね。彫刻刀には日付を書いて、刃のところには顔を書きます。それこそ大事なものと目が合う瞬間というものを私は大事にしているから、道具を買ったときはこれをやります。インクにも日付を書きます。使い始めの日を年月日で入れて。それぞれの個性を作ろうと思ってて、使っているとこれぐらいから共にしているんだなって(笑)誕生日を与える感覚ですかね。今までの彫刻刀は全部とってあります。うまく研げないので、研げる様になる日までとっておいてあります。
   
   

■絵本作家としても活躍されていますが、版画と絵本制作の違いは感じますか?
絵本という世界を知るまでは、自分だけの世界で作りたいものを作っていました。いいなと思うものを作って、完成したらそれを「どうでしょう!!」という感じで、展示などを通して見てもらうことに充実感を感じていました。絵本は作り始めから色んな方と関わりながら進むので、相手の反応が見られるのも新鮮です。
   
   
■絵本を作りはじめての発見はありますか?
絵本を作るまでは、版画という生の原画にこだわっていたのですが、初めて絵本の印刷物ができたときに、それまでの過程も含めてすごく重みを感じました。何千部と刷っていても、私の中では宝物というか、ときめきの塊なんですよね。編集、営業、印刷、製本と各パートに関わる人がいて一冊の本が出来上がるので醍醐味を感じます。やる前は知らなかった世界だけど、やってみたらすごく楽しくて、版画とはまた別の新しいときめくものとして今は絵本をやっています。
   
   
■絵本作りで苦戦することはありますか?
やっぱり産みの苦しみというか、絵本は版画作品とは違った反応を感じることがあります。例えば、目が怖いと言われて、いつもと違うタッチで描いてみたり。絵本は楽しい世界だけれど、私は子どもが怖いと受け止める反応もいい反応だと思っています。なので「なんでそれがいけないのか?」って思うところもありますが、今はやってみようという思いで自分にないものに挑戦しています。絵本が楽しくて、ついつい割合が多くなりがちだけど、最近は自分の版画作品作りも大事にしたいと思っています。もっと作品を作れば、もっといい絵本も作れるんだろうな。どっちもいいものを作りたいです。
   
   

■絵本を作り始めたきっかけは?
絵本は2017年から作り始めました。それまでは、年に2回個展やグループ展をしていたんですが、鑑賞者の人に「これを絵本にしたらおもしろいよね」と言われたり、鈴木海花さんの本の表紙にしていただいたり、その時はぼんやりとこういう世界もあるのか~思っていました。鑑賞者の方から作品の意味を聞かれることが多くて、作品に10行くらいの文章をつけ始めたのもきっかけです。小学校の時に書いた日記と同じ感覚で文章を書いていたんですが、言葉って楽しいと思って、絵本ができちゃうなと思いました。
2017年に、『飛んで日に日に夏になる』という展覧会をしたのですが、その時に出版社の人からお声がけをいただき、『マンボウひまな日』という絵本があれよあれよと完成していきました。
だから展覧会が全てのきっかけですね。みんなに見てもらうっていうのが好きで楽しいから、それを目標にしていたら、見る人の層も広がって絵本につながりました。
   
   
■最後に、今回の個展『いっぽ、にほ、さんぽ』を目前に、来場者の方へのメッセージをお願いします。
町田の鶴川に引っ越してきて15年くらいですが、町田は駅周りも世界堂があったりと楽しいし、ちょっと歩けば里山もあるし川もある。少し歩けばすごくいい散歩ができるなと思います。私は町田を拠点に活動してて、自分の家から『いっぽ、にほ、さんぽ』でいろいろ活動が広がっているので、今回このタイトルがぴったりなんじゃないかなって。だから散歩気分で見に来てもらえたら嬉しいです。作品自体が散歩のようなものが多いので、文章つけてどういう所でこういうことがあったのかも紹介できればと思います。
   
   

たけがみたえ プロフィール

木版画家、絵本作家。
1986年東京生まれ。
和光大学表現学部芸術学科卒業。
長野で牛にかこまれ目があったときの衝撃から
「見たら見られた」をテーマに木版画を制作している。

パリコレッ!ギャラリー vol.9
たけがみたえ個展「いっぽ、にほ、さんぽ」

町田パリオがオススメする
アーティストの月イチアート展シリーズ第9弾!

日々の何気ない時間のなかの出来事が、
生き生きと色彩豊かに綴られる。
絵本作家としても活躍している
たけがみたえの、版画と絵本の原画が贅沢に味わえる展示会。

日付:2021年7月20日(火)〜8月1日(日)
時間:11:00~18:00
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