まちだをふりかえる その3 〜成瀬・喫茶・洋楽〜

開催:2018年7月15日(日)

こんにちは。
いつも町田にいるキタムラです。

最近は金森や成瀬をてくてくと歩いています。駅前の大きな商業圏から離れると、小さなお店や大きな公園に出会います。坂道の多い景色に「やっぱり町田だ」と嬉しくなることもあります。

成瀬は駅前のターミナルを抜けるとすぐに坂道です。「そうてつローゼン」を超えて左手に坂道を登るとすぐにその喫茶店にたどり着きます。
懐かしい思い出として教えてもらったり、気になるライブの会場になっていたり、時々訪ねるようになってからはBGMを楽しみながら考えごとをしたり。
今回は、そんな「喫茶イマジン」の店主・宮下恵子さんに、お店と成瀬のことを教えてもらいました。

音楽話で横道にそれながら話した、変わっていくことやこれからのこと。

宮下 「成瀬って新しい街なんですよ。新しいって言っても、もうだいぶ経ってるけど」

成瀬駅が出来たのは、昭和54年(1979年)のこと。
喫茶イマジンのオープンはその5年後、昭和59年(1984年)でした。

宮下「当時は駅前もまだ空き地が多かったんです。原っぱばかりで。
それが駅前にローゼンとユニーが出来てから、住宅も増えていったんです」

ユニーもあったんですね。

宮下「そう、ローゼンの隣にね。今マンションになっているところ。ローゼンと連絡通路でつながっていて、ちょっと高級な感じでしたよ」

宮下「『イマジン』っていう名前は、もちろんジョン・レノンの曲名でもあるけど、『想像する』っていう意味の通りに『みんなで思い描いたものを作っていこう』っていう意味でもあるんです。
実際にメニューもお客さまの好みに合わせて変わっていったし、途中からはライブも始めました」

ナポリタンは昔から変わらないメニューですか?

宮下「そうですね。生姜焼きも人気でしたね。最近ではオムライスやハンバーグを好きな人が多いかな」

どんなお客さまがよくいらっしゃいますか?

宮下「開店当時は、近くで働くひとたちや、高校生たちもいっぱいで。サッカー部が全員で来たり、ひとクラスのみんなが集まったり」

その頃はまだ、高校生が喫茶店にいると不良って呼ばれてしまうようなことはありませんでしたか?

宮下「そうなんです。でもイマジンはなぜか大丈夫でしたね。近くにゲームセンターもあるし、こっちでも長居して。その時のお客さま方が50代になった今でも来てくれますよ。
マンガを持ってきてくれたのもそんなお客さま方なんです」

店内の一角の本棚にはたくさんのマンガが並んでいます。続きの気になるものは買い足しながら、次第にコレクションが増えていったのだそうです。
店内の印象的な蕾の形のランプも、同じようにお客さんからいただいたとのこと。

宮下「それ以外はほとんど昔からのものですね。天井の丸いビクターのスピーカーも今じゃ珍しいですね。
中央の大きなテーブルは、内装を手掛けた大工さんが開業前の店内で制作してくださったんです。入り口のドアを通らない大きさですよね。
そういえば、壁際のテーブルは以前はゲームのできるテーブルを使っていました。インベンダーゲームなんかができるような」

音楽は昔からお好きだったんですか?

宮下「そうです。ビートルズもストーンズも。『ホテルカリフォルニア』のイーグルスも。ボブ・マーリーやソウルも聴くようになって…」

オーティス・レディングとかサム・クックとか?!

宮下「そう!近くに貸しレコード屋があったんですよ。それをカセットにダビングしてよく聴いていましたね」

ライブを始めたのは、いつ頃からですか?

宮下「オープンしてから15〜6年経ってからですね。バブルがはじけた後にユニーもなくなって、成瀬が買い物のできる街からいわゆる住宅街になっていきました。
近くで働いていた人たちも減っていって、出来ることがないかって考えた時に選んだのが、やっぱり音楽。『ライブやってくれない?』って知り合いに頼んだんです。
お店の名前に惹かれたのか、バイトのスタッフたちも音楽をやっているようなひとたちが多かったから」

ピアノはその頃からお店に?

宮下「ライブ仲間が譲ってくれたんです。その方は今もジャズヴォーカルライブで出演されていますよ」

続けていくにつれて話題が広がり、次第に土日はイベントで埋まることが多くなりました。
普段でも45席という席数の多さ、同時にミュージシャンとの距離感の近さ。それがイマジンでのライブの魅力なのだそうです。
音楽好きなお客さんが増えていきます。

宮下「レーザーディスクでライブ映像を流していたこともありました。高校生たちが夢中で観ていましたよ」

「動いてる!」って驚きますよね。

宮下「そう!あの頃は珍しくて」

(※DVDをAmazonで買えるようになり、YouTubeで動画を見られるのが当たり前になるまでは、憧れの海外ミュージシャンのライブ映像は貴重でした)

今は、ライブ以外にもピアノのレッスンやハーバリウムの教室も行なっているんですね。

宮下「少し前にはお芝居の会場にもなりました。18〜19歳の演劇を志しているひとたちが、発表の場所がなくて困っていた時に、ライブでイマジンを知ったお客さまが紹介してくださったんです。いろんな使い方ができます。
これからはね、歌声喫茶みたいなこともやってみたいんですよ」

店内にいらしたお客さまも「町田市の中でも成瀬は一番変わったんじゃないかな?」と話して下さいました。
町田駅前も変化の多い商業圏ですが、商店の入れ替わりが激しいということ自体が駅前らしさとして変わらずに続いています。一方で成瀬は、原っぱから、駅と商業施設のある街になり、やがて住宅街になっていくという街のあり方自体が変わっていきました。

その変化の中でも、変わらずに音楽への情熱と、お客さまへの愛情を注ぐ宮下さんの「まだまだいろんなことができますね」という言葉が印象的でした。

最後に少しだけピアノを聴かせてくださいました。
練習中の「イエスタデイ」。
浮かび上がるメロディに、「喫茶イマジン」の中で生まれた思い出も感じられるようでした。

「喫茶イマジン」
東京都町田市南成瀬1丁目8-12 中山ビル 2F
営業時間:11時~21時
定休日:火曜日
※毎月の定休日とイベントは、Twitter(@naruse_imagine)にてお知らせ
▶︎詳細情報

文・写真 北村友宏