町田まわるまわる図鑑 〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー〜 <アーティスト:伊藤類>

開催:2022年11月5日(土)〜11月13日(日)

町田で本格的なアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第24弾は町田市在住のアーティスト:伊藤類さんです。


カラフルな色彩、くるくると変わる様々な形。
軽やかで静かで、そして穏やかな作品世界が展示会場を彩ります。
今回は、伊藤類さんに木版画へのこだわりや作品制作方法など、ざっくばらんにお話しを伺いました。

■木版画に出会ったきっかけを教えてください。

皆さんも子供の頃に学校の授業で木版画を作った経験があると思うのですが、それが楽しかった思い出があります。それと、両親が家に絵を飾っていて、その中に版画の作品もあり、日常的に絵画作品に触れる機会が多かったです。今思えば版画は身近な存在でした。

■大学の頃に版画を始められたということですが、どのような経緯があったのでしょうか。

私は油絵科に入学したのですが、油絵も好きだったけれど、油絵は描いた人の筆跡とか息遣いが出てくる感じがして、それがなんだか自分の全てを曝け出しているようで、ちょっと自分はこっちの方向じゃないなって感じていて。もっと軽い感じの作品を作りたいな、版を通して作品を作る方が自分には合っているなと思い、大学3年生から版画専攻を選びました。版画の作品は見ているとじんわり良くなります。簡潔で無駄がありません。日本は障子だったり折紙だったり、紙と馴染みが深い文化圏なので、そういう意味でも日本人は版画と相性が良いのかもしれないですね。

■版画の数ある技法の中から、木版画を選ばれた理由を教えてください。

木版画は他の技法に比べると版木を彫るか彫らないかしかないので単純だと思うんですけれど、単純だからこそ絵にするのが難しいところに魅力を感じました。それに、描いた様に筆跡が残せないことも良い所だと思います。私の作品は「木版画っぽくないね」って言われることがあります。木版画は、彫り跡が残るものだと思うんですけれど、私はあえて木版だけど木版に見えない作品を作りたいなと思っているので、彫り跡をなるべく出さないようにしています。なので、そのような感想は嬉しいですね。

■小学校の頃に触れる木版画は白黒の単色刷りのイメージが強いのですが、「水性多色木版画」とは具体的にどのような技法ですか?

どんな作品にするか下絵を描きそれを何色で表現するか考えて、使用する色数の版木に下絵を写し、彫刻刀で彫ります。彫り終わった版木にハケでポスターカラーやガッシュなど水性絵具を均一に乗せ、湿した和紙に一色ずつ順番にバレンで摺り重ねていきます。皆さんがよく目にする浮世絵と技法は全く一緒です。ただ浮世絵は絵師、彫師、摺師の分業制でしたが、現代では作家一人が下絵の作成・彫り・摺り(自画自刻自摺)を行う創作版画が主流です。
私の場合は最初に100%の下絵を考えず、自分の作品のイメージを求めて絵を描くようにそれに近づくように木版画を作っています。全体の5〜7割を彫ってから試し刷りします。銅版画(*1)やリトグラフ(*2)は足りなければ加筆できるけど、木版画は彫ったら版がなくなってしまうので、これ以上彫るか彫らないか熟考し試し刷りを何回も重ねて制作します。

*1)銅版画…銅版に絵画や文字を彫り、銅版面を凹版にすることで印刷を行う版画技術。
*2)リトグラフ…水と油の反発作用を利用した版種で、クレヨンや絵筆など、画材のテクスチャを活かした状態で印刷することが可能な版画技術。

各色の版木と完成作品

■伊藤さんの作品は、色が特に印象的だと思っているのですが、どのように配色を決められているのでしょうか?

自分の売りは何かと問われたらやっぱり色かなと思っているので、そこはこだわっています。使う色は、下絵を描く時点で大体決まっています。1作品につき使用する色は3〜4色位です。色をたくさん使ったからといってそれが良いとは思っていないので、色数はなるべく制限して、それでも良い効果が出るようにしたいと思っています。色によって手前に出てくる色や、逆に奥にいくもの、浮かんで見える色があります。重ねる順番によっても効果が違います。見る度に色がフワッと手前に来たり奥にグウーッといったりそんな空間を表現したいです。
今は絵具はチューブから出した色をそのまま使っています。木版を始めた当初は混色していましたが、それは逆に色を濁らせているだけで意味がないと感じて、色を混ぜるのではなくて重ねる事で複雑に見せる方がいいと思ったのです。
色の組み合わせはちょっとギョッとするような反対色を合わせるのが好きです。ギョッとするような組み合わせでも画面を占める色のバランスによってハッとさせるような画面を作りたいです。
制作する時はだいたい3つ作品を同時進行で作っているのですが、なるべく違う色の組み合わせになるようにします。一つの作品だけずっと作っているとその作品にこだわり過ぎてしまい、自分でも分からなくなってしまうんです。なので頭をリフレッシュさせながら制作に取り組むようにしています。

アトリエの様子

■形も抽象的なものから具象まで、さまざまなモチーフを使われていると思いますが、モチーフ選びはどのようにされているのでしょうか?

形は、なるべく単純で強い形が良いなと思っています。シンプルに複雑にしない。単純でも組み合わせで面白かったり、連続させることで面白い表現ができると思っています。形に意味を持たせることがあまり好きではなくて、具体的にならないようにしたい。なにか面白い形ができたらいいなと思って作っています。具象のモチーフを用いることもあるけれど、モチーフ選びは実際のところ意味はないですね。先に色から考え始めることが多いんです。この色だから、じゃあ風景っぽくしてみようかなぁとか、そういう感じです。具象の作品だと、構図のアクセントとしてモチーフを置くっていう使い方をしたりしています。

■これまでに影響を受けたアーティストなどはいますか?

デイヴィッド・ホックニー(*3)が好きですね。色々やってる人で、ペイントもやるし、版画もやっています。明るいカラフルな色を使っていて、軽やかな表現がすごく好きです。あとはアンリ・マティス(*4)も好きだし、ピート・モンドリアン(*5)も。あとは映画監督のデイヴィッド・リンチ(*6)かな。リンチも版画をやっているんですよ。すっごく独特で、映画の一場面なのか、ちょっとダークな感じで「リンチはこんな風に考えてるんだ!?」って思いますね。

*3)デイヴィッド・ホックニー…20世紀を代表するイギリスの現代芸術家の一人。1960年代のポップアート運動にも参加し、時代を牽引した。
*4)アンリ・マティス…19〜20世紀を代表するフランスの画家。「色彩の魔術師」として謳われ、自然の美しい世界を描いた。
*5)ピート・モンドリアン…19〜20世紀を代表するオランダの画家。本格的な抽象画を描いた最初期の人物として知られ、水平と垂直線で区切られた三原色のみを用いた作品群が有名。
*6)デイヴィッド・リンチ…アメリカを代表する映画監督。脚本やプロデューサー、ミュージシャンなど、幅広い肩書きを持つ。代表作は『イレイザーヘッド』(1976)、『エレファント・マン』(1980)など。

■現在は町田にお住まいということですが、町田との関わりを教えてください。

出身が座間市なんです。なので、町田は子供の頃からよく来ていました。美大の予備校も町田にあって、そこにずっと通っていたり。今住んでいるところに20年くらいずっと住んでいます。町田の街が変わっていくのもずっと見てきましたよ。お気に入りのスポットだと、尾根緑道が好きですね。桜並木で眺めが良くて、桜の季節はすごく良いです。

■来場される皆様に、ひとことお願いします。

ここ4〜5年の作品と、今回のための新作を合わせて展示する予定です。30点以上展示します。今回のメインビジュアルも新作で、11月なので秋っぽい目に留まってもらえるような、パッと目を引く色味で制作しました。会期中は毎日在廊していますので、是非いらしてください。作品や技法のことなど、直接説明させていただければと思います。

伊藤類 プロフィール

神奈川県生まれ東京都町田市在住。
武蔵野美術大学卒業 大学在学中より木版画を始める。
個展やグループ展示などで制作発表している。

パリコレッ!ギャラリー vol.24
伊藤類「木版の色と形」

制作している水性多色木版画は使用する色ごとに版木を彫り、
一色ずつ絵具を版木に刷毛で乗せて
馬楝(ばれん)で湿した和紙に摺り重ねていきます。
色を混ぜるのではなく重ねることによって出来る奥行や空間、
質感をお楽しみください。

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