町田まわるまわる図鑑 〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー〜 <アーティスト:こむろめぐみ>

開催:2022年9月23日(金・祝)

町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第23弾は町田初展示のアーティスト:こむろめぐみさんです。

<心象風景>をテーマに制作をされているこむろめぐみさんによる絵画展を開催。
旅や人と共通の景色を見る体験が難しくなった昨今、
作者の内に残る<映画と旅の心象風景>を共に体験する風景画展を開催いたします。

こむろさんに、作品コンセプトやメインビジュアルのモデルとなったドイツの旅の話、
映画についてのお話、今展示とスペシャルイベントの見所など、様々なお話を伺いました。

■若い時に絵を描かれていて、一度は制作をやめられていたということですが、
コロナ禍にまた制作を再開されたきっかけをお伺いしてもよろしいですか?

コロナウイルスの流行は、私にとって、結構な天変地異だったんです。
外にも行けないし、友達にも会えないという状況で家でずっと過ごしていたのですが、これまで、当たり前にしていた、出かけたり、仕事に行くとか、「外に出なきゃ」っていう気持ちからすべて解放された一人の時間が楽しかったんですよね。それで、久しぶりに「あの時見た映画でも見よう」と思い、TSUTAYAで映画を借りて、友達と連絡を取り合ったりしました。以前、イラストレーターで友人のSAITOEさんと映画に関する雑誌の記事を見 ていて、映画の1シーンを一緒に描いてみようよっていう話になって。向こうはイラストレーターで、私はどちらかというと写実的な絵を描く側なので、同じ1シーンだけど違うタッチの絵を、見比べたらすごく面白かったんです。コロナ禍で連絡をとった時に「あの遊びは面白かった」という話になって、じゃあせっかくだし、10本映画を決めてお互い絵を描いて、インスタグラムにアップしようよというのがきっかけでした。

■こむろさんは「心象風景」をテーマとした作品を作られていますが
その表現をされようと思ったきっかけを教えてください。

自分の作品が「心象風景」をテーマにしているという自覚をもったのは、30代になって絵画制作を再開した頃です。以前、自分の好きな映画の1シーンを描いて、それを沢山並べて、マイコレクションを眺めるような展覧会をしたんですね。その時に「この映画のシーンを見たのって、あの時だった」とか「そういえばあの時のこと思い出すな」など、改めて気づいた事がきっかけで、自分が見た「現実的な景色」と「好きな映画の1シーン」を並べたら、自分の記憶の中の心象風景を作品として再構築できるんじゃないかと思ったのが一番大きいですかね。

■旅をされるのがお好きだということですが、今までどのような場所に行かれましたか?
始めての海外旅行は、学生の時のイタリア旅行です。学校の先生の旅行に付いて行っていいという旅行で、カメラも持たずに、携帯で撮影したらいいやと思っていたら、海外では充電ができないことが判明して、記憶にだけ留めて帰るような旅行でした。
今思い出してみると、見た作品よりも景色や色の方が印象に残っていて、オレンジ色の建物の世界とか、日本の空とは違う青色があって、その光景が記憶に残っていて、逆にカメラを持って行かなくてよかったと思いました。
ダ・ヴィンチの彫刻が教会の外壁に雨ざらしになっていたり、道を曲がったところの広場に、輝くメリーゴーラウンドが回ってて、すごくロマンチックで興奮して乗ったのはすごく楽しい思い出です。
あとは、新宿のゴールデン街の飲み屋でドイツのクリュンという村出身の3人組と出会った時のお話です。その人達は、3日間日本に滞在してドイツに帰るって話で、その3日間、毎日会いに来てくれたんですよ。その一人が誕生日をお祝いしに来てよってことで、イタリア以来、ヨーロッパ旅行もしていないし、これはいい機会だと直感してドイツに行こうと思いました。クリュンは人口2000人の、すれ違う人が全員知り合いみたいな所で、陽気な人ばかりで、あまりにも綺麗なところだったんですよ。標高900mくらいの所で空気が澄んでいて、アルプス山脈の一部が見えたり、雪が私の身長くらいまで積もってたり、本当に牧歌的な村でした。のんびりと景色を眺めて、そのときに日本とのスケールや、色、自然の質の違いを感じて、そういった場所が私は好きなんだなと思いました。その年の夏にもまたドイツに訪れて、普通の観光だと行きづらい場所にも行きました。ドイツは自分の肌感に合ってたんでしょうね。ドイツをきっかけに旅や景色をより意識するようになりました。

■今回の展示タイトル「[see.]」の意味を教えてください。
[see.]は英語だと「見る」という意味で、ドイツ語だと「湖」、使い方によっては「海」という意味になっています。記憶の再構築をテーマにあげた時、ドイツに行ったことは人生の中で大きくて、その時見た景色がすごく印象的でした。今回、作品展をやるということで何がいいかな?と思った時にポッと出てきたのが「水辺」だったんです。ドイツの湖を描きたいというのが大きかったのと、展示タイトルを考えてノートに書き留めていたときに、英語だと「景色を見る」、「作品・絵を見る」という意味にもなるし、面白いなと思って、言葉遊びと突発的なインスピレーションで、迷わず決めました。

■旅の中でご自身の作品に影響のあったエピソードを教えてください。
クリュンの湖が、今回の展示のメインビジュアルの場所です。冬に行った時に、夏のクリュンはとても綺麗と聞いていて、しかも夏は、湖で泳ぐと聞いて、私もやってみたいと湧き立ちました。実際に見て、「人が本当に湖で泳いでるぞ」と感動しました。水の色が青緑色で、山並みが見えて、このあたりの人はみんな湖水浴にくるのが夏の定番みたいな過ごし方をしていました。実際入った水は、すごく冷たくて、入るまでに10分くらいかかる。すぐに慣れるけど、入った瞬間はやばい。深くて奥底が見えなくて、ずっとバタ足しなきゃいけないし、そういう様相も含めて、ある意味映画みたいって思いました。何をやっても、自分の中で物語として成立してしまうような要素が沢山ありました。
スケール違いの大自然の景色を見てすごいと思ったのと、こういう世界があるんだって衝撃を大きく感じました。旅で印象に残るのは、人や作品よりも、やっぱり景色で、そのときの色や、全体の空気感とかのほうが重要ですかね。全体を内包する気配とかを出せたらいいなと思いながら絵を描いています。

■こむろさんの作品は青の色がとても印象的に感じたのですが、
 こだわって使用されている色や色彩表現などはありますか?

私は、アイスグリーンが好きなんです。ちょっと緑がかっていてパステル調でキュートだけど、すごく神秘的だなと感じている色です。あとは、ショッキングピンクに近いような色も、必ず隠し要素のような、カレーの蜂蜜のような感じで使用しています。
蛍光色を好んで使うことも多いですね。それもスパイスのような感じです。本当か嘘かわからない話ですけど、以前誰かに言われたのが、人の肌の色には蛍光色が入っているという言葉がずっと残っています。確かに光に手をかざして見ると、手が発光して透けるように見えることがあって素敵な話だなと思っています。最近は、普段使わないような、くすみのある色を使うようになりました。また、絵を描く上で、透け感は意識しています。アクリルガッシュを、結構シャバシャバに溶いて使用しています。水状にしたものを盛って、重ねて、一番下には何色を入れておこうかなみたいな。もしかしたら下地の色の事に一番頭を使っているかもしれない。どうしてもそれをやってしまうのは一種のこだわりかもしれないです。

■作品制作中のルーティーンなどはございますか?
映画、音楽やラジオ等を聞きます。私にとってベストのものはドラマの「結婚できない男」(※1)です。あとはバラエティの「人志松本のすべらない話」(※2)とか。あまりに絵に向き合いすぎていると、本当にこれでいいのかなとか、ネガティブの部分が出てくるので、明るい作品や、お笑いを流してると、その感情が中和されます。そうすると気持ちよく描けるというか、変にこだわりすぎずいい塩梅でできることに気づいたので、そういう音声だけでも楽しんでいられて、かつ明るいものがいいなと思っています。

(※1)「結婚できない男」… フジテレビ系列の火曜夜10時枠にて2006年7月4日から9月19日まで放送されたテレビドラマ。全12回。主演は阿部寛、脚本・構成は尾崎将也。
(※2)「人志松本のすべらない話」… 2004年12月28日からフジテレビ系列で特別番組として不定期放送されているトークバラエティ番組。松本人志(ダウンタウン)の冠番組。略称は『すべらない話』。

■ご自身の好きな映画、または影響を受けた映画について教えてください。
一番好きな映画を聞かれたときに必ず答える映画が「日陽はしづかに発酵し・・・」(※3)で、映像を見たときにとても浮遊感を感じました。空気感の引力や、あとは字幕の言葉のチョイスとかの影響がかなりフックになっています。
もう一個はビクトル・エリセの「ミツバチのささやき」(※4)で、今はTSUTAYAの良品発掘コーナーで見かけますが、昔は見れる媒体がなくて、たまたま池袋の新文芸坐で上映があり、見に行きました。別の作品との二本立てで、朝9時の上映でそんなに満席ではない中、映画が流れて、その空気感があまりにも異様で美しいと思ったんです。ミツバチの巣の造形が沢山出てくるんですけど、端正な美しさや、異様さの中にある美しさがすごく出ている映画で、あまりにも愕然としてしまいました。終演後、本当は二本立てだからもう一本観れるのに、ワーッて飛び出すように劇場を出て、その劇場の人に「もう一本ありますよ」って言われたけど、ものすごく早歩きで外に飛び出して、ピリッとした夏の日差しの中、近くにある珈琲屋に飛び込むように入って、そこで一時間呆然としました。「あれはなんだったんだろう」、あんな気持ちになったのはその先もないぐらいでしたね。それぐらい愕然とした映画でした。

(※3)「日陽はしづかに発酵し・・・」… 制作年:1988年 制作国:ソ連 収録時間:136分
原作:アルカージー・ストルガツキー/ボリス・ストルガツキー 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
(※4)「ミツバチのささやき」… 制作年:1973年 制作国:スペイン 監督:ビクトル・エリセ

■こむろさんが描いた映画のワンシーンについてのキャプションをとても面白く感じたのですが、文章を書く上でのこだわりや、人に見て欲しい部分などはございますか?
あれは実は人に見せる気がない文章なんです。映画でも何でも、結局感想って自分のものでしかないと思っているので、それはあくまで感想だから、否定ではないし、どんな言葉でもいいと思っていて、そういう意味ではありのまま書いていますね。変な所に「!」マークを入れたりとかしますし、「なんじゃこりゃ」「ヤバイ」といった口語で書く物や、「この映画は二度と見たくない」みたいなものもあります。ネガティブな感想も、そう思ってしまうぐらいに、その映画に強い影響を与えられているんだと思います。
中学生の時の話ですが、私は宮城県の田舎で育った人間で、深夜のテレビはどこの局も映画が流れていて、新聞欄に「けものがれ、俺らの猿と」(※5)のタイトルを見つけたんです。見たら映像が滅茶苦茶かっこよくて。音楽もサブカルな音楽だけど、かっこいいみたいな。異様な映画で別にオチもなくて、「なんだこの終わり方は、面白い」と思って、録画したVHSを演劇好きな友達に貸して、良いと言ってくれた時に、クラスの明るい女の子に「私も見たい」と言われたので貸したら「なんてもの見てんだ」って言われて。結構仰天したけど「そうなんだ」とも思ったんですよ。同じ映画を見ても、「受け入れられない」という感想を持つ人もいて、色々な感じ方をする人がいるんだっていう気付きがありました。
文章を書く上で「私はこの映画をきっかけにこう感じた」という、ある種、そういう正直な部分は大事にしてます。例えば前書いた物だと、ティーンエイジャーの時代を思い出して主人公の気持ちに自分を委ねて同じような気持ちになってしまったとか。でも、このエピソードは絶対に自分の中でしか生まれないものなので、ある種そこでコミュニケーションを取りたいという気持ちがあります。文を読んで、「あなたも、もしかしたらその映画を見たときに同じことを思うんじゃない?」とか、そういう事を聞いてみたいという気持ちが根底にあります。

(※5)「けものがれ、俺らの猿と」… 制作年:2001年 制作国:日本 収録時間: 107分
監督:須永秀明 原作:町田康

■今回、TSUTAYAとのポップアップイベントや、トークショーなどの特別イベントを開催されますが、見所などを教えてください。

私はいつもTSUTAYAさんに行ってるので、お世話になってるという気持ちがあります。映画のレンタルは、デートの誘い文句に、雨の日に家に呼ぶきっかけを作れるとか、TSUTAYAで一緒に映画を探して、その人のチョイスを見て人となりを知るみたいな人間交差点のような面が魅力的です。店舗ごとにそれぞれ特集やラインナップが違ったりしていて、そういう場所で、今回自分も映画を選ぶバイヤーになれるというか、こんなにありがたいことはないと思っています。今回選ぶ映画は、昨今、サブスク(※6)が主流の中、DVDをレンタルすることは減って来た時代だと思うので、だからこそあまりサブスクにない作品を選ぶようにしました。そこの部分は見所だと思います。
トークショーはインタビューでお話したような旅の内容と、作品の題材になった映画の話や、ドイツの旅の話を中心に行います。あまりガイドブックに載っていないような場所へいったので、単純に珍しいお話ができると思います。旅雑誌には掲載されない情報とか、そういう部分が話せたらと思っています。

(※6)サブスク… サブスクリプションの略称。定期的に料金を支払い利用するコンテンツやサービスのこと。商品を「所有」ではなく、一定期間「利用」するビジネスモデル。

■来場者の皆様に伝えたいことがあれば教えてください。
自分の制作は、記憶の振り返りというか、自分の中の物をもう一回見つけているところが強いので、あの時も「あんなことがあった」とか、映画を見たときに「この人と見た」とか、リンクするところが続けて生まれて来て、それってすごく面白いですし、自分の生活の中に映画のようなストーリーがあったり、「ミツバチのささやき」の話がまさにそうですが、自分の中にあるドラマみたいな展開を見つけると面白いなって思います。パンデミックになって、大変な世の中になってしまっていますが、その中でも別の面白みや良さを見つけて、そういうものを大事にして行くと豊かなんじゃないかなと私は思っています。作品を見た人にも、「あのキュウリうまかったな」くらいの生活の何気ない気づきを持って、ニコニコしてもらえたらいいなって思います。

こむろめぐみ プロフィール

1989年宮城県生まれ。2011年創形美術学校ファインアート科卒業。
映画をテーマとする作品を制作しており、作者が影響を受けた映画のワンシーンに
見立てた風景画の制作や、国内や海外を旅した際に撮影したポラロイドなどの写真を元に、作者の記憶・私生活でみた「景色・心象風景」を題材とした絵画制作を行なっている。
作品とともに、作者の観点で見た叙情的なキャプションの文章も展示する。
2012年初個展。グループ展参加や、個展開催など多数。直近は、2022年「Quiet」(スペースくらげ、神奈川県)にて個展を開催した。

パリコレッ!ギャラリー vol.23 こむろめぐみ「[See.]」

映画で観た景色と、そこから想起される旅の記憶を辿る絵画展を開催。展覧会タイトルである[See.]とは、英語では"見る"ドイツ語では"湖""海"を意味する言葉であり、本展示では、水辺の景色を主な題材とした作品を展示する。心象風景として映画作品が残る、忘れていた記憶が蘇る。そうした日頃、無意識に自分の中に残っているものを取り出すような試みの作品制作を行う。
TSUTAYAとの映画POP-UPコーナー企画や、作品に登場するドイツ南部の村での「旅」の体験談を話すトークショーも開催!
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