町田まわるまわる図鑑 〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー~ <イラストレーション・写真:みきかよこさん>

開催:2020年9月16日(水)

イラストレーション・写真:みきかよこさん

町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第三弾は、地域助産師であり、イラストレーターであり、母であり、妻であり…
様々な顔を持つ、みきかよこさん。
今回は“行き場のない日常の記録「こごと展」”と題し、初のイラスト展を開催します。
“こごと”と題しながらも、作品から溢れるのは日常への愛。
今回個展を開催するにあたり、みきかよこさんにお話を伺いました。

■本展は行き場のない日常の記録「こごと展」とおもしろい視点のタイトルがついていますが、こごとをテーマにしたのはなぜですか?
私が作品を描くときって大抵怒っていたり、もやもやしている時なんです。個展にあたり、描いたものを改めて見たときに、“こごと”の集まりだな〜って改めて思い、このタイトルにしました(笑)“こごと”と言っても、そんなネガティブなものではなく、独り言、つぶやき、ぼやきに似たものですね。私にとっては“こごと”は、“なにかやりたい、伝えたい”という原動力があるんです。また、毎日いろいろ起きる些細な“小事(こごと)”という意味もかけています。他の人からしたら大したことでなくても、自分にとっては大事な“小言”と“小事”、この2つの意味合いを込めて“こごと”としました。
 
   
■“行き場のない日常の記録”という表現がユニークですが、どんなものを指しますか?
私は日常のちょっとした事をとりあえずイラストに描くんですが、そういうものってクレームみたいに市長に手紙書くとかお客様窓口に行くとか具体的な行き場がなくて、“行き場所がないもの=こごと”かな、と思います。例えば、育児が始まってからは子どものやらかした事の数々とか、イラっとする事だったり、共感はされないかもしれないし、誰に何を言っても改善されるわけでもない。どこにぶつけていいのかわからない、でも自分の中だけで納めるのはもったいない。大々的に外にだすものでもなくて、自分の中で“ごにょごにょ”しているものですね。
あるいは「落ち着け」とか「ごはん作りたくない」とか自分に言い聞かせたい事だったり。我ながらうまく言ったぞ!と思う子どもとの会話の切り替えしとか、スキルというほどのものでもないけれど、書き留めておきたいものもあります。

■今回イラストの他にフィルム写真も展示されますが、いつ頃からカメラを始めましたか?
フィルムカメラは友達が持っていたのをきっかけに興味を持って、2014年頃からはじめました。FUJIFILMのフィルムカメラ NATURA CLASSICAを使っています。このカメラはFUJIFILMの最後にだしたフィルムコンパクトカメラで、当時ヴィレヴァンで買いました。出来上がるまでどんなものが撮れているかわからなくて、いつも現像するのは楽しいですね。フィルムの質感が好きですし、スマホのように撮りっぱなしではなく、印刷して手元に残るので何回も見返せます。
※ヴィレヴァン…書店ヴィレッジヴァンガードの略。書籍以外にも幅広い雑貨を扱う複合型書店であり、売れ筋商品と共に趣味性の高い商品を中心に扱う「遊べる本屋」。

   
     
■イラストと写真、二つの表現に違いはありますか?
写真はその時に大事だと思った些細なこと、残しておきたいものを撮っていますね。写真の方がイラストより若干ポジティブですね。私は日頃から引いて見るクセがついていて、アウトサイダーでいるのが好きなんです。一歩外にでているところから隠し撮りしているような感じですかね。
 

■アウトサイダーの心地よさを感じたのはいつからですか?
小さい頃から男子グループと女子グループの外にいる、どこにも属さないのが好きでした。アウトサイダーでいるのが心地よく、ちょっと外側にいて全体を見たいという気持ちがあります。10代の頃は5年ほどアメリカに住んでいたのですが、日本文化とアメリカ文化、ふたつのカルチャーの違いがあって、こっちの国だったらどうとるか、あっちの国なら…とか、なんとなくどっちも見える狭間にいたからかもしれないです。
今は、病院で働いている助産師のことも、地域で働いている助産師の気持ちもわかる。いっちゃえば中途半端なんですけど、なんかいろんなモノの中間辺りにいるのが好きです。
助産師とイラストやデザインをやっているとデザイン業界の話も医療関係者の話もわかる。でもその両者には接点がないので、お互いの認識のすり合わせに時間がかかってしまいます。でも私は、例えばポスター作るとなったとき、予算や納期などの目処がわかるし、医療系のイラストを描くときにどういうところに注意が必要かわかるので、間をとりもつことができるかなって。
   
   
■イラストに英文が入っているものがありますが、海外生活の影響ですか?
10歳から15歳のちょうど一番文字を書いていた時期が海外でした。イラストが英文なのは、もちろんビジュアルが好きというのもあるんですが、英語だと“中二病”※を発症しやすいというか。数式みたいにポン!ってシンプルにだせるので、わりと感情を表すときは英語の方がやりやすくて。特に怒りを表現する時には、英語なら瞬間で沸かせるんです。日本語だとちょっと優しくなっちゃったり、尖った言い方にすると尖りすぎちゃったり、情報量も多すぎるので。
※中二病…思春期特有の思想・行動・価値観が過剰に発現した状態を表すネットスラング。

■イラストは小さな紙に描かれることが多いようですが、なにかこだわりがありますか?
絵を描く媒体はカードや名刺サイズの紙を使用しています。それにGペンや竹ペンなど、強弱のでるものでカリカリ描くのが好きですね。飽きっぽい性格で小さい頃から日記とか続かなくて、同じノートに書き溜めるのも苦手で。なので、小さいサイズで完結する方がよく、ラフにざっくりと、ちょこちょこ悪あがきのように残しています。イラストは家中にバラバラとあるので、個展にむけて探さないといけません(笑)
※Gペン…ペン先(ペンの先端)にインクをつけながら筆記・描画に用いるペンの一種。ペン先が軟らかく強弱をつけやすい。

   
 
■よく裸の女性を描いていますが、なにかそこに意味はありますか?
そこに意味はないです。むしろおっぱいに対しては、特別扱いするものではないと思っています。だってそこにあるじゃんって(笑)意味づけしているのは人間であり、社会なんだと思います。私は裸を描いているのではなく、ただ服を着ていない絵なだけなんです。服はシチュエーションが限られるし、どういうシチュエーションなのかとか意味がありすぎて。それがめんどうくさいし、表現したいのはそういうところではないので、裸のままです。高校生くらいからこういう描き方はしていますね。
もともと身体についてはオープンな考えを持っていましたが、助産師になってより自分の考えに補強された感はあります。私が女性の身体を描くのは、自分ごとだから。裸の絵はおっぱいを見せたい・好きというより、裸の方が本来の姿で楽だなというのが理由です。
あとは根底に“おっぱいを出してなにが悪い”みたいな反抗心みたいなのがあって、絵にでちゃいますね。男の人なら汗かいていたらTシャツ脱げるのに、何で脱いじゃいけないんだろう?みたいな素朴な疑問があって。
   
   

■高校生で進路を選ぶ時にアートか助産師か、迷いませんでしたか?
高校生で進路を選択する時にアートはなかったです。妹にイラストレーターになることを薦められましたが、自分がそれになるっていうことにピンとはこなかったですね。
周りにすごくクリエイティブな人もいましたし、そういうのが好きでしたが、自分自身がクリエーターになることにコミットできなかったです。
看護を選んだ理由としては、どこでも食べていける仕事がしたいというのもありましたし、人類が滅びそうになっても医療ならば、というのもありました。ちょうど私の年で文系コースでも看護を受けられる制度ができました。看護を学びつつ、となりの学部でデザインの勉強もできたので。それと幼稚園の時の夢もなぜか看護師で、小さいころから病院の器具が好きでしたね。注射できるのがかっこいいとか。妹1人、弟2人の4人姉弟の長女だったので、寝かしつけや子守には圧倒的に自信があって、おむつも替えられるし、ミルクも作れるし、お風呂も入れられるし、小学4年生にして育児はまかせてと勝手に思っていました。
 
 
■看護の道に行きつつ、アート活動はどのように続けましたか?
ずっと何かしらの形で描くという環境がありました。例えば、学生の時の文化祭のTシャツ作りだったり、ゼミの先生が主催する講習会のポスターだったり、病院勤めの時のちょっとしたイラストだったり。どこにいっても絵の需要はそれなりにあって、そういうところでずっとイラストは描いてきました。また、社会人になって体調を崩して働けなくなった時があったのですが、近くのデッサンの学校に、リハビリを兼ねて一年くらい通っていた頃がありました。どちらかというとデッサン道場という感じで、ひたすらモデルさんをデッサンしていました。絵を描く作業って疲れるんですよね、自分の実力を認めざるをえなくて。でもその頃に発表することの大事さがわかって、いろんな人に見てもらうことで世界が変わって面白いなと思いました。
 
 
■現在助産師として働く一方、イラストレーターとしても活動していますが、職業は?と聞かれたらなんと答えますか?
しいて答えるなら助産師と言います。自分が一番社会に還元できるのは、助産師のスキルだと思っています。イラストのお仕事もいただきますが、発注されたものをそのままできるかというと、そうでもないなと。その点、“仕事を受けて返す”という意味合いでは、助産師なら妊娠・出産・育児の相談の方がお役に立てると思っています。いろんな顔を持っているのは、私はなにか一本になるとだめで、いろんなところに逃げ場がないとやっていけなくなっちゃうからだと思います。
   

■みきかよこさんにとってイラストはどういうものですか?
イラストって自分にとっては気持ちの整理に使うツールですね。私にとっては、日常の中の行為という感じで、アートが近い存在にあります。日本だと特にアートと日常は切り離されている感じがするけれど、アメリカとかイギリスとか他の国のアーティストをみていると、割と日常の延長で作品を発表している人も多くて、“アーティストとそうじゃない人”という境界線が割とグレーなところが多いように思います。その辺、日本はきっぱりしないとだめー!みたいな雰囲気を感じます。
今回、私がラインナップに混ぜてもらえた意義があるとすれば、この境界線を曖昧にする役割があるのかなと思います。たぶんラインナップの中でわたしがいちばん「だれ?」という存在だと思うんですが、私がワークショップでやりたいのもそういうことで、“一般人”の私の感じていることなんて…と思わなくていいというか。アーティストでも、イラストレーターでもない一般人が感じた物事を、わざわざ形に残して展示とか大それたことしなくてもいいじゃん、みたいにならなくてもいいんじゃないかなっていうメッセージがあります。誰でもクリエイティブになれる面があると思うんです。それを0か100かじゃなくて、そういう部分をちょこっとずつ持っていて、そういう自分もいるんだな~とか、そういうこと言ってもいいんだな~って感じてほしいです。そういうことって回りまわって、“自分を大事にすること”だったり“自分は一人の人間として、そこにいる”ということに繋がると思うんです。もっと自分自身を感じられる人が増えたらいいよねって思います。
   

■アートをもっと身近に、まさにパリコレッ!ギャラリーのテーマとしているところです。改めて、来場者の方々へメッセージをお願いします。

もや~っとしてうまくいえない小さな事々や感情など、大したことじゃなくて、どうにもならないかもしれないけれど、大事にしてもいいよね、というのが今回の展示を通しての提案だったりします。たぶん、中には見ていてイラっとする人もいると思います。作品の完成度だったり、もっと私の方がうまく描けるとか、この程度のものでとか。ただ、そこには発表しているか、していないかの違いがあると思います。そのレベルにいかないと発表しちゃいけないって思っちゃっている人もいると思いますが、私はもっと普通の人でも出したいものとかがあると思うので、こういうのもありじゃないかなって。そういうバリエーションをだす意味でも今回パリコレッ!ギャラリーに参加させていただきました。これぐらいだったら私もやってみようとか、こういうものを描いてみたら楽しそうだとか、思ってもらえたらいいですね。私の作品もそうですが、フィルム写真をおこすのとかってお金がかかるんですよね。特に行く場も決まってなし、こんなにお金かけてどうするんだろうって、ちらっとよぎったりもするんですけど、それは私が楽しみにしていることだったり、好きなことだったりするので、それを大事にしても悪いことじゃないと思っています。

■最後に町田在住のアーティストとして、町田といえば?
町田と言えば鳩サブレーと図書館とおばあちゃん家。
大叔母さんが町田に住んでいたので、小さい頃から年に一回は町田のおばあちゃん家に遊びにきていました。おばあちゃんが小田急デパートで鳩サブレーを買ってきてくれたので、町田といえば鳩サブレ―(笑)
町田へは、夫(絵本作家・イラストレーターの中垣ゆたかさん)の生活圏内だったので、そこに私が越してきた感じです。夫は『町田家、あさって、しあさって。』という四コマ漫画を連載しているので、住むところはやっぱり町田です。町田は、世界堂があり紙やペンが買え、田園都市線一本で実家にもおばあちゃん家にいけるので。
それと町田の図書館がすごく大きいので、吹奏楽部だった高校生の時は新譜を探すときに町田にきて音源を借りていましたね。
 
 

記者の感想
アートをもっと身近に。それはどういうことなのか、改めて考えさせられるインタビューでした。本来自由なはずのアート、上手い下手ではなく、純粋にもっと構えずにアートを楽しみたくなりました。とりあえず、部屋の壁に落書きでもしてみようかしら。
 
(文:まちだはまちだプロジェクト 櫻井久美)
 
 

みきかよこ(イラストレーター) プロフィール

1985年東京生まれ、町田市在住。 日々の暮らしの中で気づいたこと、つまずいたことをテーマにイラストを作成。自分の体と、こころや社会との折り合いについて考えていることが多い。過去には助産師の小雑誌「トラウベ」の発行、女性限定イベント「おっぱい会」の主催、図書館での写真展「くくらず」を開催、またGINZAオンラインの挿絵担当と多岐に渡り活動。助産師、ベビーウェアリングコンシェルジュ。

パリコレッ!ギャラリー vol.3
「行き場のない日常の記録 こごと展」

町田パリオがオススメする
アーティストの月イチアート展シリーズ第三弾!

日々のささいなことや、気になるけれど大きな声では話さないことなど、行き場のない日常の記録に場所を作る試み。

日記のようなメモのようなイラストと写真で綴る、みきかよこ初めてのイラスト展。

小さなアーティストのミニ展示もあり!

日付:2020年11月5日(木)〜11日(水)
時間:11:00~18:00 (最終入場終了30分前まで)
※10日(火)20:00まで、6日(金)・11日(水)17:00まで
会場:3F ギャラリー・パリオ
入場無料

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パリコレッ!ギャラリーvol.4
アーティストインタビュー
フリーペーパーの展示:宇野津暢子

「玉川つばめ通信」大展示会を開催にあたり、発行人 宇野津暢子氏に「玉川つばめ通信」の創刊秘話や現在に至るまでの軌跡、そしてフリペの魅力を伺いました。

▶︎インタビューはこちら

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