町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」
第38弾は、版画作家・西平幸太さんの個展を開催します。
西平さんはシルクスクリーン技法をメインに、
A4サイズ〜切手ほどのサイズのものまで、
掌サイズの“ちいさな世界”で作品を展開されています。
今回は、作品制作についてはさることながら、
作品のモチーフとなっている様々な蒐集品(しゅうしゅうひん)と作品制作の関係性、
主宰されているアトリエのお話などなど、ささやかな日常と制作の日々の様子を伺いました。

⬛︎ 西平さんが美術やものづくりに興味を持たれたきっかけを教えてください。
幼稚園から小学6年生ぐらいまで絵画教室に通っていて、特に小学校に入ってからは油絵を描いていました。今も当時の絵を玄関に飾っていて、それが原点だったのかなと思います。大学には油絵科で入ったんですが、1枚も油絵を描かなくなっちゃって。何をやっていいのか模索しながら、色んなことに興味を持ち学んでいく中で、版画に出会いました。最初は木版画で、もちろん小学生の時経験しましたが、改めてやってみると紙をめくった時のドキドキ感が毎回新鮮で、すごく楽しかったんです。そして版画の面白さを知る中でシルクスクリーン(*1)とも出会い、今に至るという感じです。
そして、ものづくりがどんどん楽しくなっていったのは、大学4年生の頃に展覧会で初めて人に作品を見てもらった経験からで、同級生の作品を見たり色々な刺激を受けて、もっと色々やってみたいなという気持ちになりました。手漉き和紙など知らない技法にも挑戦してみて、それで習得した技法を版画と合わせてみたり、様々に試行錯誤を繰り返しました。制作に没頭して、大学へは誰よりも早く行き、夜までずっと制作するみたいな日々でしたね。シルクスクリーンも含めて、本当に色んなことをやりたいという気持ちが強かったです。
あとは教育実習もきっかけのひとつで、教えながら自分も学べた部分があり、いろんな分野やジャンルを知っていると、教えることよりも返ってくるものの方が大きかったです。それで教材研究にも興味を持ち始め、大学院に進んで制作を続けたいという思いが込み上げてきました。
(*1)シルクスクリーン:版画技法の一種。メッシュ地を孔版させることで版を作り、インクを乗せ、スクイージーで強く押し当てて一定方向に動かし、メッシュの穴を通してインクを対象物に印刷する。
◾️数ある版画技法の中でも、シルクスクリーンを選ばれた理由はなんですか?
性に合っているというか、自分の“手仕事”が残らないというのが一つ大きかったのかなと思います。例えば鉛筆デッサンで、ハッチング(*2)のような、筆跡が残るものがすごく苦手だったんです。筆跡は実物に存在しない線なので違和感があって、自分はなるべく滑らかなトーンを作り上げるようにしていました。キャンバスに毛筆の筆致というのも好きではありますが、なくしたい時に限って筆致が残ってしまったり、筆の毛が入ってしまうことも、同様に苦手でしたね。その点、シルクスクリーンは自分の仕事(筆跡)を残さず、平坦に決まってくれるので、そこに一つ魅力を感じました。自分が刷りたい紙の上にインクが乗って、それがすごくフラットであるというのが、自分にとっては衝撃でした。
「職人的な仕事」というのが自分の中では強いです。版を刷り重ねる時も紙がちょっとでもずれると図像もぶれてしまうので、紙の位置や力加減、版の固定の方法など気をつけなければいけないことが多いんです。そういった点でも、シルクスクリーンは制作工程がすごく職人っぽいなと思いますね。あとは、グラデーションが一番表現しやすい技法だなと感じます。
それにシルクスクリーンは、同じところに上から模様などを刷り重ねてあげれば、そこだけボコッと盛り上がってくれて、そういった効果もすごく面白く、インクの物質感をより強く感じられたり、コントロールできるのも魅力です。
(*2)ハッチング:絵画や図案などにおいて、一定の面を平行な線で埋めて陰影を付ける技法。


◾️西平さんは小さいサイズの作品を多く制作されていますが、理由はありますか?
小さい作品の方が自分にとってやりやすいというか、性に合ってるなというのがありまして、制作を続けるうちに、掌サイズの世界観が僕はいいなっていうのが分かってきたんです。手に取って色々な方向からじっくり物を観察する行為と、角度を変えて版画作品を鑑賞する行為はリンクするところがあるかなと思いました。学生時代に高さ120cmくらいのシルクスクリーン作品を作ったことがありますが、大きい作品では細部を虫眼鏡で覗いてるような魅せ方もできる反面、刷り重ねの表情変化が伝わりづらかったんです。やっぱり近くで見る醍醐味を体験してもらうには、小さい作品を色んな角度から鑑賞してもらうのがいいなと思いました。
◾️シルクスクリーンの他に、立体やコラージュなど、様々な技法で作品を展開されていますが、作品ごとのアプローチはどのように決めますか?
シルクスクリーンを主軸に作品を作っている意識はあまりなくて、どれも並列の土俵で制作している気がします。振り分け方は感覚の部分が強いのかなと思うんですけど、例えば言葉だったり、何かモチーフのアイデアが頭の中で立体的に浮かび上がったり、先に強くイメージ(図像)が出てくるものは立体にしやすいです。立体作品は、掌の上に置いた感覚を想像しながら、絵では表現できない形のものを作りたいなと思います。
シルクスクリーンは、複数のイメージが合わさる作品で使用することが多いかなと思います。あとは刷り重ねの表現をしたい時やグラデーションを使いたい時など、職人的な仕事を必要とする時は版画かもしれません。制作ジャンルに迷うケースもありますが、そういう時はまず立体を作ってみます。その後、版画やドローイングに変えてみたり、色を変えて立体に戻してみたり、「循環」させます。この「循環」自体が大切な要素でもあるので、展示の際は、同じモチーフ同士をわざと離れた場所に配置してみたり、別の作品の一部に他の作品のモチーフを入れてみたり、「これがあれだったのか」と鑑賞者に発見を楽しんでもらえるような遊びとして取り入れています。


◾️制作全般について、こだわりや心掛けていることなどがあれば教えてください。
シルクスクリーンの“角度で表情が変わる”という醍醐味は、写真だと平面的に写ってしまいうまく伝わらなくて。いつも個展の時は原画を集めた作品ファイルも持っていって、実物を見てもらうようにしています。本物(原画)しか持っていない質感やきらめきを大事にしたいですね。
また、制作の前後に必ずアトリエの掃除をしっかりやります。儀式的な側面でもあるのかなと思っていますが、整理をすることによって自分の中の制作順序も整うような感じがあって。床なんかは、手で雑巾掛けをしています。特にシルクスクリーンは埃が大敵で、清潔感のある環境が大事なんです。紙の上へダイレクトにインクが乗っかるので、乾燥させている最中に埃が入ってしまうと取れなくなってしまいます。なので、冬場はエアコンも点けません。エアコンを点けちゃうと風で埃が舞ってしまうし、湿度の変化で紙のサイズが変わってしまったりするんです。自分が安心できる空間で制作するのが一番大事だと思います。
◾️本展では蒐集品(しゅうしゅうひん)を作品へ展開される試みを行われていますが、この取り組みはいつから行われていますか?
大学4年生あたりからシルクスクリーンへ方向性が定まってきて、その頃から蒐集品モチーフで制作していたと思います。最初は実際に目の前にあるものをそのまま絵にしていましたが、蒐集品で作品を色々作っていくうちに、モチーフを並び替えて描いてみたりして、この方向性が面白いかなと思うようになりました。同じモチーフでも配置を変えるだけで全然違うような見え方をしたりとか、モランディ(*3)的な感じで、そういうのもいいなと思いました。逆に、あまり頭の中で思い浮かんだものを描くという感じではなかったですね。
(*3)ジョルジョ・モランディ:20世紀前半のイタリアの画家。主に作品が静物および風景画を描き、生涯のほとんどをこの限られたテーマで制作した。主張やストーリーを感じさせない独自の静寂世界は、20世紀の美術史において特異の位置を占めている。

蒐集品はネットオークションで手に入れることが多いのですが、手に入れられなかった物は悔しくて、作品に落とし込んで、絵の中で手に入れる、みたいなことをしてみたり。(笑)できれば本物が欲しいけど高いし…それに物が増えすぎても大変なので、とりあえずスクリーンショットでデータだけコレクションしておいて、後日作品に活かすということもしています。

◾️蒐集品はいつから集められていますか?
小さい頃は世代的にビックリマンシールやガンダムのカード、ポケモンカードなど、当時の流行り物を集めていたんですけど、大学生になってから色んな物に興味を持ち始めて、アンティークの小瓶や雑貨だったりを集め始めました。やはりそれも全部ちいさい手のひらサイズのものでしたね。ネットでも色々探すと、知らない物で溢れていて、世の中には見えてなかったものがたくさんあるんだなと思いました。郷土玩具や骨董品、ボタンやガラスの小瓶なんかもこの頃から集めていました。細かいものは大体のジャンル分けをして箱に仕舞うんですが、集めすぎて闇鍋状態になってしまうこともあって。(笑)久々に箱を開けた時に、ここにあったんだという発見があって、それが制作に繋がることもあります。モチーフとして購入することもありますが、そうでなくても気になったらポチッとしてしまいますね。(笑)

◾️ご自慢の蒐集品はありますか?
これは昔の郷土玩具で、和紙で作られた折り紙の蛇のおもちゃなんですけど、ものすごくリアルなんです。質感や蛇のうねる感じもかなり再現度が高くて、紙とは思えないくらい緻密に細かく折り込まれています。目もガラスでできているし、当時の職人の技術力や文化風習なんかも感じ取ることができる逸品です。普段、高校で講師をしているのですが、和紙を取り扱う授業の際はこのおもちゃを持っていって、教材として役立てています。大阪の博物館でも同じ品が所蔵されているそうで、手に入ったのはラッキーでしたね。(笑)

◾️蒐集品を版画や立体へ展開する時は、どのように工夫をしていますか?
モチーフ単体で描くものもあれば、近頃ではその中に自分のイメージや言葉を組み合わせ、新たなものを生み出すという制作になっています。例えば、鳥モチーフの蒐集品の作品に、新たに“巣作り”の要素を入れたら面白そうだなとか、言葉遊びで、空想の何かを作れないかなとか。鳥の鳴き声が香りになったらいいなと思い、タイトルを「さえずりは香(こう)」と付けてみたり。あとは浮世絵の「立版古(たてばんこ)」という、紙をくり抜いて組み立てる現代のペーパークラフトのようなジャンルが当時からあったんですけど、それを参考に制作をしたこともありました。ラベルや小さい香水瓶をモチーフに作るのも好きです。特にお札・切手・ラベルの作品はシリーズで展開していますね。シルクスクリーンで制作しているお札のシリーズはできるだけ細かくしてやろうと思って、かなり細かく模様を入れています。器や和物をモチーフにしていた時期は、家にあるお気に入りの食器や陶器など、実際にあるモチーフ同士を組み合わせて登場させてみたり。モチーフ自体を簡略化するようになってからは、なるべく陰影をなくして形や模様で遊んでみたり、色やリズムで魅せれないかなと、色々試しました。また、いつの頃からか“その絵を手にしたら運が良くなる”という気を込めて、縁起物の作品も作るようになりました。
蒐集品の質感や雰囲気も伝えたいという気持ちがあります。でも描き込みすぎるとリアルになりすぎてしまうので、あえてシンプルでチープな形に置き換えて描いたりして、それが本物を見た時にギャップがあって面白いんじゃないかなと思っています。実物と作品を見た時に「あ、これはこの子なんだ」という気づきも面白いかなと。モチーフはさりげなく組み込むのもポイントで、「実は一部分だけ本物があるんですよ」っていう。何の変哲もない、シルエットだけでも伝えられるような物をモチーフにする時は、“そのもの過ぎない”ようにしています。

◾️本展でここは見てほしい!という注目ポイントを教えてください。
ちいさい作品が結構並ぶと思うので、しゃがんだり覗き込んだりして、ちょっと視点を変えて見て欲しいなと思います。版画作品でも、正面からだけではなくて、違うアングルから見てもらったりとか。作品をまるで手の上で観察するような感覚で鑑賞してほしいなというのがありますね。それが蒐集している物を見る行為とも繋がってくると思うので、ぜひ体験してもらいたいです。
今回の展示は、蒐集品モチーフと作品を「循環」させたものがメインですが、テーマとしては、ちょっとノスタルジーで、お菓子のおまけ感やチープな世界観というのがあります。「これはもしかしてあのおもちゃかな?」みたいな“ひょっとして感”といいますか。ここで言うチープさというのは、モチーフの蒐集品の作りが簡素ということではなくて、雰囲気のことを示します。作品の中では素材感をすごく大切にしていて、木彫作品は裏を見ると作り込んであったり、見た目はお菓子のおまけ感があるけど、実際にはすごく手の込んだものだったり。近づいて見ていくと色々発見がある感じの作品になっています。今回は旧作と新作の、ちょっとしたコラボレーションのような、新旧がリンクする遊びを入れ込めたらと思っています。過去に作ったものを集めて、さらに新しいものにしてみたり。あとは、蒐集しているお酒の瓶なんかに貼ってあるラベルで、コラージュの作品やオリジナルのラベルなんかも展示しようと思っています。
◾️ご自宅で運営されている『アトリエニトホ』では、どのようなことを行なわれていますか?
よくある絵画教室ではなくて、普段学べないようなマニアックで専門的なことが学べる教室を目指してやっています。例えば製本技法や手漉き和紙体験、あとは額縁作りなど幅広く。さらに、製本のために必要な道具を作るワークショップも開講しました。うちにはプレス機もあるので、もちろん版画もできます。
僕ができる範囲内の、マニアックで色んな知識技術を、場所や期間のハードルを低くして学べる場にしたいなという思いがあります。まずは一回参加してみて、他のものにも興味が出てきたら何回か通ってみたり、友達だけで貸し切りでやったりとか、色々楽しいことが体験できる、マニアックに、より専念できるような場所づくりを目指しています。

机自体も西平さんの手作り!
講座の題材は、基本的に自分ができることがベースですが、“ありそうでない、あったら面白いだろうな”というものが多いです。ベーシックな技術の回もありますが、マニアックな題材を探す時は、外に出て展覧会だったりお店を回ってヒントを探します。そして題材が見つかったら、どうすれば面白くなるかを考えます。例えば、雑貨店で指輪の収納ケースを見つけ、それを自分の持っている製本技術と組み合わせたら、もっと可愛くなるんじゃないかなと製本作りの応用版で、「指輪のためのおうちづくり」をやってみたりしました。あとは、季節によって題材を変えてみたりもします。


既製品の指輪収納と組み合わせている。
(指輪は蒐集品のひとつである「フエラムネ」のおまけ)
実際に来ていただいたお客さんからのリクエストを内容を取り入れてみることもあり、製本の道具作りがまさにそうなんですけど、結構人気でした。これもネットでは作り方が詳しくは出ていなくて、だったら自分がやればいいかなって。それと、コレクションを見せながら解説したり、毎回必ず題材にまつわるお話もプラスしています。体験で終わるのではなく、それがまた学びに繋がってくれると嬉しいなと思っています。
アトリエを始めたきっかけは、自分の制作に繋がっているんですけど、色んな人が集まる場にもなってくれたらいいなと思います。作家同士の情報共有をする場だったり。自分の技術を教えながらも、自分も知らない世界を横断的に見ることができるのかなという期待があります。普段、教壇で色んなネタを用意したりするんですけど、そこが実験場にもなっていて、もっと突き詰めて商品化したものをアトリエで提供しているという感じです。

◾️今回は紙版画で“いしころブロマイド”を作るワークショップを開催していただきますが、おすすめポイントを教えてください。
今回のワークショップでは、ボール紙をカットして、ヤスリかけやニスを塗って、少し立体的な版を作るところから始めます。そこに好きな色の絵具を塗って、プレス機で刷って完成です。時間制限があるので、版をひとつ作って、色を変えて何回か刷る形になると思います。やすったり、乾かしたりする工程があるので、意外と時間がかかりますが、簡単な形だと2個くらいの版は作れるかもしれないですね。
完成したら、作った物同士をぜひ交換して楽しんでほしいです。版画は版さえ作れば何度も刷れるので、お友達同士なら、版を貸し借りして、別の色にしたり並べて刷ってみるとか。作品の物々交換ってなかなかない経験だと思いますし、版画だからこそできる魅力なのかなと思います。版自体もかわいい感じに残ると思うので、楽しんでもらえると嬉しいです。

◾️来場者の皆様へひとことお願いします。
展覧会タイトルが「ちいさなニューワールド」なので、小さな世界観を楽しんでもらいたいなというのがまず一番ですね。あとは細々したものをたくさん展示するので、是非懐かしみながら、愛でるように鑑賞してほしいです。美術作品って緊張感があったり難しいことを考えて鑑賞しないといけないのかなと思う方もいるかもしれないんですけど、そういうことは一切なくして、朝起きておはようって言うような優しさと言いますか、家族でデパートのおもちゃコーナーを眺めるような感じで、カジュアルにふらっと足を運んでほしいですね。観る人毎に色んな目線で楽しんでいただけるような展示にしたいです。
西平幸太 プロフィール
1986年八王子市生まれ
2012年東京造形大学大学院修了
近年は蒐集したものをモチーフにシルクスクリーンや木彫、製本技術を使ったオブジェなど手のひらで眺める小さな作品を制作。

