町田まわるまわる図鑑 〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー〜 <アーティスト:下大沢駿>

開催:2021年8月31日(火)

町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」の第13弾は、
下大沢駿さんによる現代美術展です。
2021年9月2日(木)より、パリコレッ!ギャラリー vol.13 下大沢駿「木曽山崎でヒッチハイク」の開催にあたり、
お話を伺いました。

●下大沢さんは《「アスファルト」の下に「土」があることを実感したい。》というテーマをで作品を制作されていらっしゃいますが、制作をはじめたきっかけは何ですか?
小学校6年生の時に横浜市のニュータウンに引越しをして、学校は住宅地まで緑道の一本道で繋がっていたので、綺麗で安全で快適な街だったのですが、すごく面白くなく感じて。寄り道が全くできなかったんです。人為的に作られた街というのは、あまりにも綺麗すぎて、不自然さやわざとらしさを感じてしまう部分もあります。自然な人間の街や生活というのはどんなものだろう、と疑問に思ったことがきっかけです。

●美術の道に進んだ理由はなんですか?
私は生まれてこの方マンション暮らししかしたことがなくて、かつて住居には必ずあった床の間とか、そういう日本の伝統的な部分を知らなかったんです。「普通に暮らしているだけでは知り得ない過去につながりたい」と思い、美術の分野の中でも最も伝統的に感じた彫刻専攻に進みました。あとは、木、石、土、金属など、素材そのものに触れられることも魅力の一つでした。「本物に触れたい」という気持ちが大きかったのだと思います。

●下大沢さんにとって、どんな街が理想的ですか?
団地というのは理想的な街だと思うんです。今は少子高齢化の波を受けてしまい、商店街も昔ほどの活気はなくなってしまっている団地が多いですし、周辺の学校も廃校になってしまっています。そういった中でも、地域の人々がこの場所を続けていくためにどうしたらいいか?というのを考えているんですよね。団地も元々は人為的に作られた街で、当時の都市計画は破綻してしまっているのかもしれない、でも今は地域の人々が手を取り合って自分たちで街づくりを行なっている。そこにすごく人間らしい自然な生活が営まれているように感じます。

●これまでの代表作を教えてください。

「藤沢借景」は、2019年に藤沢市アートスペース企画「Artists in FAS 2019」にて制作を行った作品です。この作品はコンクリートをはじめとした様々な素材で、神奈川県藤沢市にある湘南台駅にある公共施設や辻堂駅をモチーフにした立体物で構成されたインスタレーション(*1)作品です。私は6歳くらいまで藤沢市に住んでいて、当時出来たばかりの湘南台駅が大きく綺麗に見えました。大人になって、滞在制作(*2)のために改めて湘南台駅に行ってみると、ものすごく小さく感じて。一方、藤沢市アートスペースがある辻堂駅は真新しく、当時の湘南台駅の印象が重なりました。

*1インスタレーションとは…展示空間を含めて全体を作品とし、見ている観客がその「場」にいて体験できる芸術作品のこと。
*2滞在制作とは…特定の場所に一定期間滞在し、作品制作を行うこと。

会期中、コンクリートでミニカーを作るワークショップを行いました。私が制作したミニチュアの公園に、子どもたちは作り上げたミニカーを思い思いに走らせていました。普通、公園では車を走らせることは出来ませんよね。その時、ちびっこたちの突拍子もないアイデアや無邪気さが、作為的に作られた街を救うことができるんじゃないかな、と気づいたんです。

「Rolling on New Road」は東京都八王子市の多摩ニュータウンの遊歩道で行ったパフォーマンスアートです。この道は新しく整備された遊歩道で、歩行者は自動車に遭遇することなく駅まで行くことができます。私はこの人間が安全で快適に通れる道に不自然さや不自由を感じました。一個人がささやかな自由を体現したり、地域に対してアプローチできる一つの方法として、この道で大玉を転がすことが、それを示すパフォーマンスなのではないかと考えました。人間が安全に通れるこの道で、ものすごくでかい大玉だって転がすことができるんだぜって(笑)大玉を転がした後は、きちんと掃除をしました。

●下大沢さんは各地の街を取材し作品を制作されていらっしゃいますが、どのようにリサーチされていらっしゃいますか?
その街を実際に歩いたり、ただその場で過ごしたりします。例えば、「このベンチ座りやすい!」とか、「ここ道が狭いから自転車通りづらそう」とか、「ここは通学路になっていて子どもが多い」とか…その街に住んでいる人が感じているようなことを知りたいんです。街の歴史や立地や交通の便などのマクロな視点はネットで調べればすぐ出てくる時代なので、実際に街に行かないと感じられないミクロな視点を大事にしたいと思っています。

●今回の展示についてお聞かせください。

今回は町田市にある木曽山崎地域をテーマに作品を制作しました。木曽山崎の中に若者の形に造ったフィギュアを6体設置して、そのフィギュアが行き交う人によってどこへ移動されるのかを記録した映像とフィギュアのを展示します。フィギュアには「あなたのお気に入りの場所まで」というプレートを持たせています。QRコードを読み取ると現在地を記録できるようになっていて、今一番遠いところだと八王子まで行っているフィギュアもいるようです。
フィギュアを若者の姿にした理由は、私が木曽山崎地域に行った時に、ちびっこは結構いるのですが若者を全然見かけなくて。高校生〜大学生くらいの子達が住んでいないように感じたんです。では若者はどこに行ってしまったんだろう?と疑問に感じたことがきっかけで今回の作品が生まれました。

また、団地を描いた6枚のドローイングも合わせて展示します。ドローイングの中の風景は、フィギュアを一番最初に設置した場所です。私自身が団地の中で心地よいと感じる場所に設置しました。今回は油性ペンを用いて描いたのですが、一般的に絵画作品では油性ペンを用いることは殆どありません。何故かというと光に当たると色褪せていくスピードが他の画材よりも早いんです。若者が、幼少期に団地を見た色鮮やかな風景が、だんだんと年月が経つにつれ色褪せて行く、といった意味を込めて使用しています。色褪せてしまった風景ですが、最終的には団地に戻ってきてほしい、という祈りも込めています。

●木曽山崎地域にはどんな印象を持ちましたか?
今回展示のお話をいただいた時に、町田には木曽山崎地域というマンモス団地があると知って、実際に行ってみたら想像以上にすごく広くて。建てられたのは50年以上前なのに、先ほどお話した理想的な街のような、人間の営みがまだまだ残る場所だなと思います。

●来場者に向けて一言どうぞ。 
町田は学生の時によく来ていて、とても興味深い地域だと思っていました。よそ者の私がどういった目線で町田を表現するか、是非ご覧いただきたいです。

パリコレッ!ギャラリー vol.13
下大沢駿「木曽山崎でヒッチハイク」

町田パリオがオススメする
アーティストの月イチアート展シリーズ第13弾!

町田市民の皆さんもご存知の木曽山崎地域は、関東有数の団地である。
この場所で今回ヒッチハイクを試みたのは、
人間ではなく小さなフィギュア達。
その一連のドキュメントを起点に、
映像や写真、立体作品で構成される展示。

日 付:2021年9月2日(木)〜14日(火)
時 間:11:00〜18:00
会 場:3F ギャラリー・パリオ

▶︎詳細はこちら