「まちだをふりかえる その4 〜珈琲・文学館通り・80年代〜」

開催:2018年8月20日(月)

こんにちは。
いつも町田にいるキタムラです。

町田は広い。
駅前のエリアから少し離れても魅力のある場所は多いし、バスに乗って電車に乗って、町田駅前以外の町田を訪ねることもあります。
そしてまた駅前に戻ってきた時には、ゆっくりと話しながら過ごせるお店に帰ります。

文学館通りをまっすぐ、右手に駐車場のある十字路を左に曲がると、今年4月にできたばかりの喫茶店があります。
町田のこと、音楽のこと、80年代のこと。少し先輩のマスターに、教えてもらったり共感し合ったり。
今回は、「中珈琲 ataru coffee resort」の山下マコトさんに、お店を始めて気付いたことや、町田の思い出を伺いました。

経験したことも、挑戦していることも違っても「同じものを見ている」と感じることがあります。

山下「生まれも育ちも相模原なんです。町田には20代の頃、相模原に自分の会社を立ち上げるまでの5年間ほど勤めていました。今の店のちょうど裏手あたりでしたね」

原町田大通りの開通したのは2002年。それ以前の街並みを覚えていますか?

山下「長屋みたいな建物がいっぱいありましたよね。小さいお店が多かったけど、今じゃうろ覚えです。お昼ご飯探してよく歩いていました。市民フォーラムの建物ができる前、あの辺りに魚の定食の美味い店があったんですよ。
あの頃はあまり入らなかったけど、喫茶店もいくつかありました。覚えているのは、やっぱり『プリンス』です」

珈琲の殿堂プリンス。2014年に閉店した時はショックでしたね。
珈琲の魅力に気付いたのはいつ頃ですか?

山下「仕事はいくつか変わっているんですが、出張で青森から九州まで本州全域を回るようになってからです。
時間をつぶすために珈琲を飲んでいたんですが、次第に美味しいお店に出会うようになると、
有名なお店や評判のお店を探すようになりました。
訪ねたお店のマスターと話すうちに、自分がお店を持つなら…というぼんやりしたイメージが徐々に具体的になっていったんです。
お店を始めてから気付いたことですが、ひとと話すのが好きですね」

町田を選んだのは?

山下「小田急線沿線で1年近く探していたんです。駅前から一歩離れているけど、遠すぎないところという条件にちょうど合う場所がここでした。昔の勤め先の近くだったのは、たまたまなんですよ。
店名の『中』と書いて『あたる』と読むのは、その頃の取引先にその苗字の方がいらしたんです。それ以来ずっと何かの時に使おうと温めていました」

内装も全てご自身で手がけたんですか?

山下「4ヶ月かかりましたね。壁も全部自分で塗って。経験があればやろうとしなかったと思います。タイヘンでした。
今も好みのものを増やして、少しずつ変えています。それがだんだん味になっていくと思うんです」

山下「飲食店で儲けを出すのは難しいって何人にも言われました。でもね、失敗してもいいと思うんです。『成功しないからやらない』じゃつまらない。数字だけじゃないんです。
ここで店を開けていることが、一生関わることのなかったはずのひとたちと話すきっかけになります。この4ヶ月だけでも計り知れない出会いがありました。
今、楽しんでいます」

お客さまはどんな方がいらっしゃいますか?

山下「珈琲好きな方が少し遠いところから訪ねてきてくれることもありますが、ほとんどが町田の方ですね。
このあたりは昼の業態のお店が少ないので、まだ商店街同士のつながりは浅いんです。それでも、町田の喫茶店やイタリアンで働く若いお客さんが『いつか自分の店を持ちたい』という夢を話してくれたこともありました。
お店の向かいには、再開発の前、文房具屋と焼き鳥屋が並んでいたんです。そこで仕事終わりによく飲んでいました。持ち帰りもできたんですが、お客さんの中には『中学生の頃によく1〜2本買って帰っていた』という方がいました。
みんな覚えているんですよね」

昔、このあたりはどんな場所だったんでしょうか?

山下「『中珈琲』の入っているこの『キムラヤビル』は、町田では2番目に古い、50年ほど前の建物なんだそうです。アンパンで有名な銀座の『木村屋』に勤めていた方が、町田にお店を構える際に名前をお借りしたと聞いています。
一階がパン工場、二階が店舗。今では細かく区切られていますが、一部増築した以外はまるごとパン屋さんだったそうです。小学校にも卸していた大きなお店ということでした。
今では想像もできないですよね」

町田ってどんな印象ですか?

山下「町田のイメージって世代ごとに違いますね。
90年代頃はヴィジルアル系バンドで話題の街。その後、今は独特の形容しがたい感じになっていますよね。
音楽の話題は途絶えないけれど。
80年代頃は、洋服を買いに来る場所でした。原宿で古着屋が流行って、それが町田にも来て。
それより前だとマルカワの方が注目されていたと思いますが。
あの頃はインベーダーゲームのブームで、高校生は喫茶店に入れなかったから、ゲームセンターに行っていました。
『UFO』っていうところでしたね」

「中珈琲」のこだわりはやはり「珈琲専門店」というところですよね?

山下「そう、カフェじゃなくて喫茶店なんです。
カフェラテやエスプレッソもないし、オシャレなスイーツもない。
だけどプリンアラモードはあります」

僕もひとと話すのが好きです。

山下さんの「失敗してもいい」という言葉。
予定通りの普通のことだけが進んでいく今の世の中、
街の小さなお店のマスターがそんな風に言ってくれることが大きな救いになります。
いつも話しているひとたちを思い浮かべると、新たな一歩も思い切ることができます。

山下「やりたいことをやらなきゃね」

「中珈琲 ataru coffee resort」
町田市原町田4-16-21 キムラヤビル1F
TEL・042-777-5522
営業時間・11時〜20時
定休日・月曜日
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文・写真 北村友宏