町田まわるまわる図鑑 〜パリコレッ!ギャラリー・アーティストインタビュー〜 <アーティスト:築地のはら>

開催:2021年12月1日(水)

町田で月イチでアートが楽しめる「パリコレッ!ギャラリー」。
第16弾は相模原市在住のアーティスト:築地のはらさんです。
アニメーションを使って面白いことができないか、日々思案されている築地さん。
パリオでの初個展開催にあたり、お話を伺いました。

●アニメーションを制作し始めたのはいつ頃ですか。
小さい頃からアニメはよく見ていましたが、作る側に対して意識を持ったのは大学進学の時です。絵を描くこととアニメーションに興味があり、両親が東京造形大学卒業だったこともあったので、同大学のアニメーション学科に進学しました。アニメーションを描いていきたい!と強く思ったのは大学を卒業し、東京藝術大学大学院 映像研究科 メディア映像専攻に進学した頃からです。大学院では様々な映像分野の研究をしている人たちがいて、アニメを描く人が周りにいなくなった時に、「私にはアニメしかないんだ」という意識が出てきました。大学にいる時は基礎的な授業が多く課題も多いしで大変だったのですが、大学院に進学すると応用編というか、本当にやりたかったことが沢山出来てとても充実した2年間でした。

●好きなアニメーションはなんですか?
「猫の恩返し」と「イエローサブマリン」が好きです。「イエローサブマリン」はビートルズの4人が描かれた映画で、1968年に公開されました。すごくサイケデリックなアニメーションで、私の作品も影響を受けています。

●築地さんは「ねずみ」をよく描かれていますが、描き始めたのはいつ頃からですか?
ねずみは大学3年生くらいの頃から、手癖でなんとなく描いていたキャラクターでした。大学院の時に自分らしいモチーフが欲しいな、と思ってねずみのアニメを描くようになりました。

●影響を受けた作家はいますか?
映像アーティストの井上涼さんです。有名なものですと、Eテレで放送されている「びじゅチューン!」を手がけていらっしゃる方です。個人アニメ作家をはじめて意識したのは、井上涼さんからですね。モニターを通して見るアニメーションだけではなく、プロジェクションマッピング(*)も作品の中に取り入れられていて、すごく勉強になります。
*プロジェクションマッピングとは…プロジェクターを使用して空間や物体に映像を投影する技術。

●築地さんはどのようにアニメーションを制作されているのですか。
最初に、動かしたいモチーフを「TVPaint Animation」というソフトでラフから清書描きまで行います。その後、Adobeの「After Effect」という映像制作ソフトで編集を行います。
最近は絵を描くという行為も「After Effect」上で行なっているので、全てがこのソフトで完結しています。

After Effectは動かしたいモチーフの始まりと終わりの位置を設定することによって、自動で間を補完し動かすことができます。

例えばねずみが走るアニメーションを作るとします。
まず最初にざっくりと頭・身体・腕・足など、動かしたいパーツをひとつずつ描きます。手の動きや足の動きをAfter Effectで設定し、走っているような動きを作ります。ただ腕を動かす・足を動かす、だけではなく、頭の動き、足の蹴りあげる感じや鼻のバウンドなど…細かい動きをひとつひとつ設定していくと、リアリティのある動きのアニメーションになります。After Effectだと動かすことは簡単なので、その分細かい部分まで調整ができますね。

●これまでの作品について教えてください。

「向かうねずみ」は2019年に制作した大学院の修了制作で、第6回新千歳空港国際アニメーション映画祭日本グランプリや第24回文化庁メディア芸術祭新人賞などをいただいた作品です。築地市場に住んでいるねずみが、当てもなくひたすら歩いていく、という内容です。制作のきっかけは、築地市場の移転の日がちょうど私の誕生日だったこと、苗字が築地だったこと、あとはたまたま、築地に大量に住み着いているねずみが駆除される、というニュースを見て、「これは人ごとじゃないな・・・」と思ったことです。このアニメは、台車にプロジェクターを乗せて壁に投影し、ねずみの歩く速度に合わせて台車を動かしています。ねずみの足音は撮影した後に付けたもので、鉄骨を歩く時の音や草むらを歩く時の音など、それぞれリアリティが出るように自分で録音をして音を収集しました。

NEZUMI DREAM from つきじ のはら on Vimeo.

「NEZUMI DREAM」は、大学院1年の時に制作した作品です。iPadに寝ているねずみがいて、壁にねずみが見ている夢が投影されています。iPadのねずみを叩くと、夢の内容が変化し、叩き続けるとねずみが起きて夢が消える・・といったものです。現実にある物が作用してアニメーションの内容が変わる、といった現実とアニメの行き来が面白いなと思って作りました。アプリケーションの技術的な面は大学院の教授が協力してくれて、表現方法の幅がとても広がり楽しかったですね。

跳ねるねずみ from つきじ のはら on Vimeo.

「跳ねるねずみ」は、横浜市立金沢動物園にて開催された「ひかるどうぶつえん 2019」にお誘いいただき、制作した作品です。「ひかるどうぶつえん」はナイトZOOとメディアアートのコラボレーションイベントで、私の作品はオオツノヒツジのエリアにワラを沢山敷いてもらい、ねずみが跳ねているアニメーションを大岩壁にプロジェクションしました。ねずみが草むらに入る時の「くしゃっ」という音はビニール袋をくしゃくしゃにした音を録音して付けました。

●アニメーション制作において、音ってかなり重要ですか?
そうですね!音ってめちゃくちゃ大事です。フリー音源に頼りっぱなしだとどうしてもチープな感じになってしまうので、なるべく自分で録音するようにしています。

●今回の展示について教えてください。

焼鳥まるでの撮影の様子。

今回、新作として町田をテーマにした切り絵アニメ「空腹のねずみ」を制作しました。「空腹のねずみ」はお腹を空かせたねずみが食べ物を求めて町田を歩き回る・・といったアニメです。今回制作した切り絵アニメは、まずPC上でアニメーションを作り、それを1コマずつ画像を書き出して、レーザーカッターで紙に彫刻し周りをカットします。それを町田の各所へ持って行き、一枚置いて撮影、次の切り絵をまた置いて撮影…と繰り返し、映像にしました。ねずみが歩いて画面を通り過ぎる5秒ほどの1シーンを作成するのに、撮影だけでも1時間以上はかかりました。その場で切り絵を入れ替えるだけなので簡単に考えていましたが、細かい位置調整があり、また外での撮影のため寒さとカメラのバッテリー切れが大変でした。今回、町田の仲見世商店街にある古本屋「Eureka book store」さんと玉川学園にある「焼鳥まる」さんにご協力をいただき、店内で撮影させていただくことができました。この作品は、デジタルで作成したアニメーションが切り絵になることでアナログになり、また写真でデジタルになるという行き来が好きです。切り絵なのに動きがデジタな部分に注目していただけたらと思います。
また、蓄光シートにプロジェクションマッピングを行う「残るねずみ」というアニメーション作品も展示します。蓄光シート(*)は光をあてると、残像が残る色と残らない色があるんです。その残像をうまく使った面白い仕掛けができればと思っています。アニメの面白さを引き出せる展示にしたいです。
蓄光シートとは…光をため込み、暗くなると発光するシートのこと。

●来場者へのメッセージをどうぞ。
アニメーションを使って面白いことができないか、ということを日々考えることが好きなので、少しでも面白さを共有できたら嬉しいです。また、アニメーションはモニターを通してみるものだけではなく色々な表現があるというところに着目して見ていただければと思います。是非気軽に遊びにいらしてください。

築地のはら プロフィール

東京造形大学アニメーション専攻卒業。東京藝術大学大学院メディア映像専攻修了。アニメーションを用いて2次元と3次元を融合させた作品を制作している。「向かうねずみ(2019)」が第6回 新千歳空港国際アニメーション映画祭日本グランプリ、第23回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門 新人賞を受賞。
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パリコレッ!ギャラリー vol.16
築地 のはら
「のはらのはらっぱ」

アニメーションを使って、どんな面白いことができるだろう?
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水に浮かぶアニメーション
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町田を舞台に撮影した新作アニメーションも展示!

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